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第52話『人柄は良い方が得するらしいのです』

名似何「……ふぅ。重いなこれ。」

深宮「何だこれ?」

名「小康か…アレだよアレ。」

深「…あー…あれか…(何だっけ?)」

「くくくくく……」

 名似何は笑いを漏らした。

 強い雨がパラパラと雨戸を叩く。そして、人工の光が名似何を照らしていた。

「さぁ、始めようじゃないか。まぁまぁ楽しい楽しい騒ぎをね……」

 名似何はヤカン程の大きさの銀色の物を、戴冠式のようにゆっくりと持ち上げた。

 雷鳴がした。しかし、雨戸で外を遮断した名似何にとっては、関係の無いことだった。

「シャドー、ここ分かんねー」

「そうやってお嬢様に近づくのをやめろと言ってるのですよこの脳味噌スポンジ男」

「俺の脳味噌中身ちゃんと詰まってるから!」

「で、どこが分からないんですの?」

「ここなんだけどさー、」

 THE STEGOのラウンジでは、いつものように隆次とシルヴィーとメイドが受験勉強に取り組んでいた。

「……成る程、これは難問ですわね」

 シルヴィーは頬に手を当てた。

「それなら多分、推移図を書いて整理した方が分かりやすいかと」

 メイドは質問した隆次ではなくシルヴィーの方を向いて、問題のページを指差した。

「あぁ、そういえばそんな問題ありましたわね。凄いですわあなた」

「ふふ、お役に立てて光栄です」

 メイドはむず痒そうに微笑んだ。

「おー、有難な」

「……」

 メイドは隆次を冷めた目で一瞥すると自分の問題に取り掛かった。

「おい!なんか言えよ!」

「黙りなさい」

 メイドは面倒そうに隆次の方を向いた。

「これでいいですか?」

「そういうことじゃねぇから!」

「さ、2人共勉強ですわ」

「はい、お嬢様」

 メイドは瞬時にシルヴィーの方を向いて笑顔で頷くと、再び自分の問題に取り掛かった。

「……」

 隆次も仕方無く自分の勉強を始めた。

 ダダダダダダ

 受付近くの階段をせわしなく登る音が、少し離れたラウンジにまで響く。

「あの野郎、またかよ」

 隆次は憎々しげに呟いた。これ位の異常は最早日常になりつつあった。

「なわわわぁぁぁあぁあぁ!」

「ははははははははは!」

 隆次の視界に飛び込んでくる2人の男女。

 逃げる男は怯えながら、追う女は笑いながら走っている。

「梨田くーん、もっと遊ぼーよ!」

「馬鹿言うな!俺の命で遊ぶ気だろ!」

「もちのろーん!」

「ざっけんなぁああぁあぁあ!」

 無論、その2人とは谷津冶と真夕である。

「雷堂ー!矢手弓ー!助けてくれえぇええぇええぇえ!!」

 谷津冶は隆次と名似何に助けを求めた。

「黙れリア充!」

 隆次は叫んだ。

「……安心してくれ梨田。私は中立派だよ」

 名似何は静かに口を開いた。

「矢手弓……」

「ちゃんと葬式には参加してやる」

「うぉぉぉおぉぉい!勝手に殺すなぁ!」

 ここまでいつも通りである。

「つーかまーえたっ!」

 ついに真夕が谷津冶の腕を掴んだ。

「うぉあああぁあ!!」

 谷津冶はまるでゾンビに腕を掴まれたかのような声を出して顔を強ばらせた。

「こぉらそこのバカップル!いちゃつくならよそでやれー!」

 隆次は怒りは小爆発を起こした。

「梨田君。今日は何して遊ぶ?」

 真夕はにこにこしながら谷津冶に尋ねた。

「何するったって、プロレスごっこしてもお医者さんごっこしても、俺が死にそうになるだけじゃねぇかぁ!」

「そっかー、その2つはやったのかー……だったら、」

 真夕は持っていたバッグの中から何やら取り出して目にも留まらぬ速さで準備を始めた。

 そして気が付くと、谷津冶は木の枷を首に付けられて寝かされていた。そしてその枷のちょうど真上では、台形上の大きな刃が電灯の光をギラリと反射している。

 そう、ギロチンである。

「お姫様ごっこ!」

「うぅぇえぇええぇえ!?」

 谷津冶は波のような叫びをあげた。

「ちょ、ま、これのどこがお姫様じゃ!」

 谷津冶は振り絞るように叫んだ。

「えー、だって、お姫様って言ったら、革命とギロチンでしょ?」

「なんで中世のフランス限定なんだよ!」

「やっぱお姫様っていったら、ねぇー……」

「それ多分お姫様じゃなくて王女だから!」

「んー、まぁいいや」

「よくねぇよ!殺す気か!?」

「大丈夫だよ、梨田君」

 真夕は微笑んだ。見た者を安心させるような、ひだまりの様な微笑みだ。

「梨田君なら、絶っ対死なないから」

「いやおい待てお前のその根拠無い自身のせいで俺は死なないと……」

「革命の時は来たり!」

 真夕は芝居がかった口調でそう言うと留め具を勢いよく外した。

「ぬわわわわわわぁああぁぁあぁあぁうぅぉおっっ!!」

 ガシッ!

 谷津冶は半ばヤケになったように両手でギロチンの刃の腹を挟んだ。

「おぉ!ギロチン白刃取り!」

 隆次は歓声をあげた。

「ぬわぁあああぁあ!」

 谷津冶はその体勢のまま体を起こした。

「おぉーっ、凄ーい」

 真夕は拍手した。

「柳垣、これ外してくれ!」

「はいはーい」

 真夕がガチャガチャとなにやら弄ると、谷津冶の首の枷は2つに分かれた。

「おー、有難な」

 谷津冶は一瞬複雑な表情をしたが、すぐにいつものヤンキー顔に戻った。

「ふふふ、どういたしまして」

 真夕は微笑んだ。

「くそっ!結局リア充大団円じゃねぇかよ!」

 隆次は吐き捨てるように叫んだ。

「いやどうしたよ雷堂!」

「うるせーうるせー、終りよければ全てよしじゃねーかー!」

 隆次は駄々っ子のように喚いた。

「いやそれどんだけ雑な締めくくりだよ!」

 谷津冶のツッコミも、隆次には届かない。

「くそー!リア充処刑されろー!」

「処刑されないしリア充でもねぇ!」

 その虚しいやり取りの中、隆次の視界の隅でむくりと起き上がる影があった。

「うゃ-っ!」

 深宮は気持ちよさそうに大きく伸びをした。

「おはよう」

 名似何は問題から少し顔を上げた

「ぉー、おはょうなぁ」

 深宮はやや寝ぼけ眼でふぃと笑った。

「小康……さっきまで寝てたのか」

 隆次は少し引きながら深宮を見つめた。いつものことながら驚きを隠せない。

「なっ!」

 深宮はビクッと反応した。

「寝てない時はちゃんと勉強してるから、ちゃんとカバー出来てんだぞ!今日だって寝る前はバリバリやってたんだぞ!」

 深宮は左腕をブンブン振りながらなにやら言い訳めいたことを言っている。

「いや、そういうことじゃないんだなぁ……」

 隆次は小さく呟いた。

「だよな!矢手弓、ナスーレ?」

「そうだね」

 矢手弓は頷いた。

「いやナスーレって誰だよ」

 隆次がすかさずツッコミをいれた。

「……ってあれ、ナスーレは?」

 深宮はキョロキョロと辺りを見回した。

「おーい、目を覚ませー」

 隆次は説得を続けた。ナスーレなんて名前の人に、隆次は心当たりが無い。

「矢手弓、ナスーレはどうした?」

 深宮は隆次を無視して矢手弓に尋ねた。

「だからナスーレなんて……」

「ナスーレならバッテリー切れたんで戻した」

「いるんかい!」

 隆次は激しくツッコミをいれた。

「「ん?」」

 名似何と深宮はほぼ同時に振り返った。

「雷堂どうしたの?」

 名似何はきょとんとした様子で隆次に尋ねた。

「いや、誰だよナスーレって」

 隆次はゆっくりと言った。

「……あ、言ってなかったね」

 名似何はあっけからんと言い放った。

「聞いてねーよ誰だよバッテリーって何だよ?」

「雷堂知らないのかぁ?」

 深宮は眉をひそめた。

「鉛蓄電池なんかは受験でも」

「バッテリーの意味は聞いてねぇ!」

「……ナスーレは、」

 名似何が話を始めた。

「友人の作った、会話の出来るホログラムだよ」

「は!?」

 隆次は素っ頓狂な叫びをあげた。

「なんだよそれスゲーな!」

「おーどうしたさっきから」

 隆次の叫びを聞きつけたのか谷津冶が寄ってきた。そのついでに隆次は名似何の席に近づいた。谷津冶も名似何の席に来る。

「矢手弓の友人がロボット開発したんだってよ!」

「マジか!?」

「35点」

 隆次の説明を矢手弓は一蹴した。

「……まぁなんか似たようなもんだろ?」

「君はたこ焼きと鰹のたたきを似たようなもんと言うのかい?」

 名似何は僅かに首を傾げた。

「……で、なんなんだ?」

 谷津冶が軌道修正を図った。

「会話出来るホログラムだよ」

「ひぇあ、スゲーなそれ」

 谷津冶は奇声をあげた。

「で、どんなのだ見せろ見せろ」

 隆次はワクワクしながらせかした。

「んー。ま、バッテリー切れたから動かないけどねー」

 名似何はそう言いながら自分のリュックを漁った。

「これ」

 そして中から取り出したのは、ヤカン位の大きさで銀色の、使いかけのクレヨンの様な形の物だった。

「これ、電源入れてなくても開くかなぁ……」

 名似何はブツブツ呟きながらとんがり部分を取り外した。

「あ、外れた……で、これを逆さにしてはめ込む、と」

 名似何がとんがり部分を逆さにして残りにはめ込むとカチリという音がした。

「で、電源を入れるとホログラムが出て色々会話出来 る、ってわけ」

 名似何は隆次と谷津冶を見た。

「ほぉーん」

「へぇー」

「……ま、明日も持ってくるから動かすのはその時だ な」

 名似何はそう言いながら装置を仕舞った。

「……てゆうか、なんでそんなものを矢手弓に貸したん だその友人は?」

 谷津冶の口から溢れた疑問に隆次は言われてみればと 気がついた。

「だよなぁ。いつもリュックん中汚いくせに」

「鶴は子を掃き溜めに突き落とすって言うし、」

「言わねーよ」

「……どうも僕が預かったナスーレは、『デフニチー ド』の頭脳の一部にすぎないらしい」

「デフニチード……覚えにくっ」

 隆次は渋い顔をした。

「ナスーレは茄子みたいで覚えやすいのによ」 「……ん、待って」

 名似何は手のひらで制止の表現をした。

「何を?」

「……ごめん、デフニチーノだったかもしれない」

「お前も覚えてないのかよ!」

 隆次は叫んだ。

「……それは、なんか覚え方とかあんのか?」

 谷津冶が尋ねた。

「さぁ。少なくとも教えてくれんかった」

 名似何はそう言いながら自分の胸ポケットから生徒手 帳を取り出した。

「えーっと……デフニチーノだねデフニチーノ。良い子 のみんなは、間違えちゃ駄目だぞっ」

 名似何はそう言うと自分の左斜め前を向いて左の人差し指で指した。

「お前誰だよ」

「……で、話を戻すと、」

 話を脱線させた張本人が生徒手帳を胸ポケットに戻し ながら話を無理やり戻した。

「デフニチーノもナスーレみたいな会話出来るホログラムなんだけど……まぁそこに自立駆動とか人の声で電源オンオフとか色々ついてるけど……専門的なことはともかく、得た情報をナスーレと共有出来るわけだ。それで、ナスーレもデフニチーノも人の会話を聞くことで自分の会話パターンを増やすことが出来てるんだよ。そこで開発者はナスーレとデフニチーノに全く別の情報を蓄えさせようとした。デフニチーノは自分が預かるとして、ナスーレはどうするか……。その時開発者は、THE STEGOとかいう魔境とそこの住民のことを思い出したっ てわけ」

「へぇー、じゃあ、別に矢手弓以外に友達がいなかったわけじゃなく、」

 谷津冶はまとめるように言った。

 名似何は頷くと、

「よかったね。君達の人柄が、ナスーレを任されたキッカケだよ」

 ニコリと微笑んだ。

「喜べねぇ……」

 隆次はボソッと呟いた。


どうもです。

今作は久々の投稿になりますが、今回書いたのは江生氏です。


前と比べて急に作風かわったな…とかありましたら、一年間で何かあったのでしょう…。


特に何も感じなかったのでしたら…何も無かったのでしょう。


この度は何の連絡も無く急に1年消えまして…本当に申し訳ありませんでした。



それでは、皆様ご機嫌よろしゅう。



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