第4話『例のごとくエンジン全開です』
隆「今回で谷津冶はお亡くなりです。」
谷「僕は死にましぇん!!!」
名「3日以上生き延びたら褒めてあげるよ。」
「若いっていいよな…」
そう呟いた隆次の視線の先には、
「梨田くーん、これ食べて、くれるかな?」
「いいともー、って言うわけ無いだろ!」
「大丈夫だって。人間ってのはね、よっぽどのことが無い限り死なないから」
「これがよっぽどのことだったらどうする!」
真夕が谷津冶に縫い針を食べさせようとしていた。
「…リア充め」
隆次は、憎々しげに呟いた。
「雷堂ー、君なんか変にカテゴライズしてなーい?ここは3次元だぞー」
名似何のやる気の無い指摘みたいなもの。
「…男女2人だからって恋人だと確定するのはどうかと思う」
何かよっぽど思うことがあったのか、近くにいた葉子が口を挟んだ。
「いやあれは確定だろ」
隆次は谷津冶と真夕を指差した。
「俺が柳垣見ると絶対に梨田おるもん」
「何回中?」
「3回中3回」
「…微妙すぎる」
名似何はそう結論を出した。
「おぉ」
深宮が手を挙げながらラウンジに入った。
「やぁ人間の皆さん」
「おっす」
「よぉ」
「こんにちはー」
「…」
「…で、梨田と柳垣は何やってんだ?」
深宮は2人の近くの椅子に座った。
「あいつ空気読めよ」
隆次は呟いた。
「あんま意識しない」
名似何は勉強のような素振りをしながら言った。実際はその素振りが、名似何にとっての『勉強』なのだが。
「…梨田君、世界中の海で、動物達が酷い目に遭っているのは知ってる?」
「…おう、」
谷津冶は、訝しげに頷いた。
「僕は今日、油まみれの鳥さんを見つけました」
名似何は空振り前提で呟いた。
「…じゃあ、海の生き物が、浜辺のゴミを食べて死んじゃうことがあるってことは知ってるわね?」
「…!いや、でもそれとこれとは…」
「私は梨田君に他の生き物の痛みが分かる人になって…」
「だからって縫い針飲まないからな!」
ついでに谷津冶は顔に似合わず、割と頭がいい。
「取り敢えず私は、人が縫い針を飲むとどんな影響があるのか気になるだけだから!本当に、梨田君いじめるいじめないの話じゃないから!ホントのホントだよ!」
「絶対の絶対の絶対?」
名似何は空振り(以下省略)。
「その熱意は全力で尊敬する!」
深宮はグッと親指を突き出した。
「じゃあ小康君…」
「だが俺の快眠ロードは邪魔させん!!」
「何だよ快眠ロードってよ」
隆次が口を挟んだ。
「俺は問う。呼吸をしたい時にしてるか?多分してるだろう。食べたい時に食べてるか?腹が減ったら食べるだろう。じゃあ、寝たい時に寝ているか?…そこなんだよ!俺は眠い時には寝る!本当に眠いなら、生涯を賭して寝る!それが人間の、本来あるべき姿なんだよ!!」
「…さて、何からつっこもうか」
隆次は言った。
「つまり…お休み!」
深宮は糸の切れたマリオネットのように机に突っ伏した。
「結局リア充の邪魔しただけじゃねぇか…」
「ていうかお前が飲み込めばいいじゃんか!」
谷津冶は真夕を見て反撃を始めた。
「自分って、自分のことをあんまり分かってないものですよ」
「梨田が不良なこととかな」
隆次が口を挟んだ。
「だから俺はパンピーだから!」
「柳垣の話が染み込んでくるようだ」
名似何は勉強擬きをしながら言った。
「とにかく、私は自分を客観視することが出来ないんです!あなたとは違うんです!」
「まぁ梨田も出来てないけどな」
「マユマユー、そんなに叫んでどうしたおー?」
ドゥーンが呑気に歩いてきた。
「ナッスルさん!縫い針を飲んで下さい!」
真夕はドゥーンをしっかりと見据えて言った。
「えぇぇー?困るおー。でも、どうしてもって言うんなら、君の…って!」
ドゥーンは真夕の手を掴んだ。
「おっちゃんが話してる間に、剣をブスブス刺すんじゃないお!」
ドゥーンの言う通り、彼の腹には数多の剣が刺さっていた。
「す、すいません!ナッスルさんに喋らせとくと、いつセクハラ発言が飛び出すか分からなくて…」
「だからってレーヴァテインだのエクスカリバーだのモルギフだのを地道に刺し続けることないお!!」
但し付け加えるが、真夕は剣を1本ずつドゥーンに刺していた。
(完全にとは言わないがあのナッスル氏をツッコミに回すとは…柳垣 真夕、恐るべし!)
そして名似何は、真夕の準備のよさと正義の心を高く評価した。
剣は使うべき時を本当に選び、その時に持っていなければ意味が無い。
「今からおっちゃん病院に行くお!ついでにこの剣も貰っていくお!」
「それは駄目ですっ!」
真夕は大量の剣をドゥーンから抜いた。
当然、大量に血が流れ出す。
「お小遣い貯めてやっと道端で拾ったんですよ!?」
「大丈夫ですかナッスルさん!」
谷津冶は叫んだ。
「おぅぅ…喋る元気も無いおぉ…」
ドゥーンはそう言って、フラフラとTHE STEGOを出た。
「…どうするぅ!」
谷津冶は真夕を見た。
「ナッスルさん血塗れだが、お前、どうするぅ!」
「どうする、ライフル〜」
隆次の冗談は結構命中率がいい。但し威力が名似何並みなので、修行が足りないが。
「…梨田君、」
「…んぁ?」
「縫い針を、飲んで下さい!」
「さっきの話、無視されてんかよ!」
「さぁ!」
「って脅されてんのかよ俺!?」
「大丈夫!剣は人を脅す為にあるわけじゃない!」
「…じゃあ断っても、刺さない?」
真夕はその問いに、ゆっくりとしかししっかりと頷いた。
「嫌だっ!」
「…梨田君」
「…な、なななななんだよ」
「めっちゃびびってんなあいつ…」
隆次は呟いた。
「…確かに、誰でも最初の1人になるのは恐い。恐いよ。…だけどね、誰かが1歩踏み出さなきゃ、誰かが道標にならなきゃ、誰も前に進めないの!!」
「目前が崖だってのに最初の1歩踏み出す馬鹿がおるかぁ!」
「…分かった」
「…な、何がだ?」
「…私が、道標になる」
「…へ?」
「私が、最初の1歩を歩む。だから、梨田君は、私の後ろに着いてきて。そして…」
真夕はそこで、谷津冶をしっかりと見据えた。
「いつか私を、追い抜いて…っ!」
「ぇええ!?つまり俺は、後でナイフとか飲み込むのか!?」
真夕は目をぎゅっと閉じて、ゆっくりと開いた。
そして…
「いざっ!」
手に持っていた縫い針を飲み込んだ。
「ゴホッ」
そして、むせだした。
「これって気管に入りそうなんじゃねぇか!?」
隆次は相当慌てているようだ。
「どうするぅ!柳垣、どうするぅ!どうするぅ!」
「どこのモールス信号だよ」
名似何(以下略)。
「ゲホッ!」
真夕の口から何かがはみ出た。
「!!」
真夕は驚きの表情をすると、
「ーーーー!!」
それを引き抜いた。
「やっぱり!」
真夕は盟友に偶然会ったかのように叫んだ。
「これ、以前に飲み込んじゃった松平剣だ!」
真夕は喜びの余韻に浸ったのか少し時間を置いてから、
「ねっ、梨田君。1歩進んだら、いいことあったでしょ?」
谷津冶にウインクした。
「いや俺間違って剣を飲み込んだ記憶無ぇし!」
「ていうかなんでそんなん飲み込んでたんだよ」
「忘れた」
真夕は隆次の問いに即答した。
「で、縫い針は?」
名似何は『勉強』をしながら尋ねた。当然、真夕達の方をちょくちょく見ていることが丸分かりだ。
「えっ?あぁ!ここ!!」
縫い針は松平剣の近くにさりげなく置いてあった。
「結局引っかかってた縫い針も取れたし、いいことずくめだね!」
「…」
谷津冶は、この場から逃げ出したくなった。
前書きのネタ切れ感が否めない……。
少し間が空くかもです。前編後編に別れますんで、同時に投稿します。
それではご機嫌よろしゅう。
原題 第4話何か満たされる為に失うもの