第XXXⅨ話『沖縄は雨が多い…気がするのです。』
隆「雲行きが怪しいな…」
名「あ、傘持って来てない。」
隆「大丈夫だ!デカい葉っぱさえありゃ…」
影「…あんなの日本にありましたっけ?」
……
「…やっぱり駄目だったか。」
「いや勝てるわけねぇだろ!?」
デュエロ…と言うよりも一方的な暴力に近い戦いに負けた隆次は、メイドが切り倒した木の切り株の上で正座をさせられていた。
「いてて……体中が痛くて堪らないんだが…」
「全部打撲傷程度で済ませましたので問題はありません。」
「あるわ!」
「負け犬の負け惜しみは醜いですわよ?」
「負け惜しみなんて言ってねぇ…」
「隆次の負け惜しみは兎も角として、一旦帰ろうよ。雨降りそうだし。」
「マジか!?急ぐぞ!」
「あら。いざとなればリュージが傘に…」
「まだ引きずってるのかそれ…」
「原価は100円定価は300円。」
「原価100円って……五円チョコ20個分じゃねぇか!」
「その例えツッコミどうかと思う…」
一同は別荘へ急いだ。
しとしと…
「雨が降って来ましたね。」
「え!?瑠美ちゃんホント!?」
その頃鳳凰の間では真夕とシルヴィーを除いたTHE STEGO生女性陣が集まっていた。
「…葉子先輩…大丈夫ですか?」
「…暫く筋肉痛かも。」
「そういえば雨の日は神経痛になる人が増えるだとか…」
「…関節痛だと思う。」
葉子は寝転がって療養をとっていた。
「はこちゃんその怪我どうしたの?!」
「ちょっと…階段から落ちて…」
この時、慣れない嘘はつく物では無いと思った葉子であった。
「だ、大丈夫!?」
「幸い打撲だけで済んでますので…」
「救急箱…!」
「あ、別にお構いなく…大丈夫ですから。」
取り敢えず今はそっとしておいて欲しい葉子であった。
ぱらぱら…
「…(雨か…)」
「…何か…私、この合宿中説教ばかりしてる気がするヨ…」
「……(そんな事私に言うな…)」
「まぁそれは置いといてダネ…まったくキミは(以下長いので省略)」
騒動の恒例となりつつあるジャンヌの説教が今日も始まった。
因みにアスカは正座だ。
ザーザー…
「うわっ!めっちゃ降ってきた!」
「傘持ってくれば良かったね…」
「お嬢様の傘持ちは私にお任せを…」
「相変わらず良い仕事ですわね。」
「うぉおおおおおお!!!」
「「「…?」」」
謎の絶叫が茂みの奥から響いた。
「何だ?」
「…嫌な予感。」
ガサガサガサバキバキバキィッ!!
「お、おぉおおおお!!」
「ガォオオオオオオオ!!!」
茂みから変態と熊が現れた!
「「って熊ぁぁぁあああ!?」」
一同は一目散に逃げ出した。
「馬鹿野郎!何でこっち来るんだよぉぉ!!」
「そ、そんな事言われてもぉおお!!」
「私!走るのはあまり得意では無くてよ!」
「いざという時は私に身を任せて頂ければ!」
「それは遠慮しておきますわ…」
「…しゅん…」
熊に追われている最中でもメイドは主人の後ろで傘をさしてやっている。
「というか何で熊が沖縄にいるんだ!」
「おっちゃんが聞きたいおー!」
一同がひたすら走っていると、目の前に分かれ道が見えた。
「どちらに行きますの?」
「おっちゃんが引きつけるからキミ達は左に行くんだお!」
「ガッテン承知!」
「……死ぬなよ?」
「変なフラグ立てないで欲しいお…。」
そして絶妙なタイミングで二手に飛び出した!
「…(ふっ、バカめ!これが、人に熊を押し付けておっちゃんだけ助かろうという素晴らしい作戦である事も知らずに!)」
この瞬間、ドゥーンの地位が下衆野郎から人間未満へと転落した。
「ふぅ…やっと助か」
「ガォオオオオオ!!」
「…………ぎゃおおおお!!?」
この下等生物は気付いていなかった。
…必ずしも熊が左へ行くとは限らない事に。
「おぉおおおお……お?おぉお?おぉおおお!?」
僅かに走った後、ドゥーン驚きの事実に気が付いた。
「い……行き止まりだおぉーーーーー!!」
君の事は忘れない!
ありがとう!ドゥーン・クォント・ナッスル!
「俺、どうでも良い事と都合の悪い事はすぐに忘れるんだ。」
「ふっ…私の記憶力の無さを舐めて貰っては困るな。」
「…っていつの間にか別荘の目の前じゃねぇか!?寝よ。」
「消えて清々しましたわ。」
「お嬢様、早くお屋敷に入りませんと風邪を引かれてしまいます。」
…相変わらずの嫌われ様であった。
「ふぅ…やれやれだな。まったく…。」
ジャンヌによるぐうの音も出なくなる様な説教の後、アスカはフラフラと歩いていた。
「梨田くーん!こっちこっちー!」
「わーっ待てーこいつー!」
「うふふうふふ」
「あははあはは」
「………何やってんだ彼奴らは。」
「げっ!アスカさん!?」
谷津冶が気が付いた。
「……うむ。仲睦まじい事を悪いとは言わん。しかし…………まぁいいか。」
「言ってくださいよ!?凄く気になるじゃないっすか!?」
「…何だ?敢えて言わない様にしてやった私の好意を無下にする気か?」
「いえ…違うっす…何でも無いっす…すんませんでした。」
期待を裏切らないチキンであった。
「…じゃあ私は、馬に蹴られない内に退散するとしよう。精々青春を謳歌すると良い。」
「は、ハイっす!」
「……」
真夕は終始無言であった。
しかし谷津冶は気にする事も無く…
「喉乾かないか?」
「あ、うん!私はリンゴジュースがいいな。」
「え、奢りっすか?」
「……え?」
「…あ、はいそうですよね…。」
今日も元気に尻に敷かれる谷津冶であった。
「……(しかし、アスカさん随分塩らしかったというか…何と言うか…)」
「……ふぅ…」
「気分はどうですか?葉子先輩…」
「ああ…随分と楽に」
「葉子ぉおおおおおーーーーー!!無事かぁあああああーーーーー!!?」
バキィッ!!
「ぐはぁあ!!」
ドシャ!
「……反射的に殴り飛ばしてしまった。何でこいつが居るんだ?」
「実は…」
〜回想〜
ガチャリ(ドアが開く音)
「葉子ちゃんの事報告して来たよ!」
「え、誰にですか?」
「…一応、涅月さんのご家族の方に電話しておいたよ。」
美毅とTHE STEGO最高責任者が部屋へと入って来た。
「ご家族…多分お兄さんかな?直ぐ行くって言ってたけど……沖縄に住んでるのかな?」
「いえ…そんな筈は…。」
「まぁ兎に角、あと10分くらいで来るって言ってたから来たら私に教えてね。あと涅月さんは…今寝てるみたいだし起きたら教えてあげて。」
「は、はい…。」
「…という訳なんです。」
「…何でこいつ沖縄に居たんだ…?しかも何でこの別荘の場所を知っていたんだ…?」
「愛する妹のピンチには日本全国何処へでも行くのが兄貴の務めだろ?」
「…アンタだけだと思う。」
「ピンチならもう過ぎましたけどね…。」
「まぁ、実を言うとバイトの途中で偶然通りがかっただけなんだけどね。」
「…どんなアルバイトなんだ…。」
「配達業でもこんなに移動しないですよ!?」
「細かい事は気にするな!まだ若いんだから。」
葉子の兄…尾九は爽やかに言ってのけた。
「さて、我が後輩の隆次君は何処へ行ったのかな?」
「…いつから彼奴の先輩になった?」
「ヘックシュ!!」
「ブレッシュー。」
「センキュー……噂かな…?」
「風邪じゃないの?何十分間も雨の中で走ってた訳だし。」
「そうだな…帰って休むか。」
「そうしよう。私も寒気がする。」
「あとここ女部屋なのでマズイですよ?色々と…。」
「大丈夫だよ!今は葉子と後輩ちゃんしか居ないんだし。」
ガチャリ
「只今帰りましたわ……って…」
「……あ?」
「…………え?」
………
……………
………………
「……言わんこっちゃ無い。」
「メイドちゃん…」
「言わずとも了解しております。」
「え…え?ちょっと?何かな?その手に持ってるモノは…?やだなぁ、物騒だよ?アハハハ…ね?ほら話し合おう!そうだそうしよう!話せば分かる!」
…地雷ワード…
「問答無用っ!!」
ギャアアアアアアアアア!!
そして1人の青年の断末魔が上がった。