表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

*決断と責任

「ライフルも形成可能か、心強い」

 薄く笑んで少年に視線を移した。

月刃つくは

「あ、はい」

 呼ばれて、形成したナイフを投げ渡す。

 受け取った瞬間、グリズリーの巨大な爪が迫ってきてベリルは咄嗟に腕をクロスした。

「! ベリルさん!?」

 衝撃で後ろに滑り込むその腕には、くっきりと大きな爪痕が刻まれていた。ベリルはその痛みに眉をひそめ、再び構える。

 月刃は流れる赤い液体に険しい表情を見せたが、ベリルはそれに淡々と口を開いた。

「私の事など気にせずとも良い」

「でも……っ」

「なんたのための不死だね」

「あ」

「気にせずこなせ」

「解りました」

 少年に微笑み、グリズリーの足下に駆け寄ってナイフを突き立てた。

[ギャン!?]

 グリズリーはズシンと前に倒れて痛みに唸る。

「……」

 その苦しむ姿に月刃は苦い表情を浮かべた。

 この熊はここに来たかった訳じゃない──強引に連れて来られ、闘わされている。なのに、殺さなくてはいけないのか?

「お前が気にする事ではない」

「!?」

 聞こえた声にハッとする。

 表情から悟られたのか、ベリルは少年に目を向けず顔色を変えずに続けた。

「私が倒すのだ、お前に責任は無い」

「ナイフを作っているのは俺ですよ」

「それを必要とするのは私の持つ武器には制限があるためだ」

 ハンドガンに重要不可欠な弾薬カートリッジ……それが無くては意味を成さない。

「今後を考え使用はなるべく限りたい」

 私には特殊な能力ちからは無いのでね。

 そう発した彼の笑みに、どうしてだか月刃は少し胸が締め付けられた。

「決断し行動するのは私だ」

「! そんな……こと」

「それを良しとしないのならば受け止めれば良い」

 闘いは待ってはくれない、互いに納得出来るものなどありはしない。

「願うのは倒した者への安らぎだ」

 静かに発したベリルは、左のバックサイドホルスターからリボルバー銃を抜き、グリズリーに照準を合わせた。

「生きる者は数々の命を背負う」

 それが世のことわり──つぶやいて引鉄ひきがねを絞る。中心にレンコンの形状を持つリボルバー銃には、もしもの時のために『ホローポイント』が一発目に充填じゅうてんされている。

「必要以上に苦痛を与える」として、戦争では使用禁止とされている弾薬だ。

 戦争以外の使用は禁止されておらず、市販で売られている。そもそも、戦争においてそれ以上の武器を使用するのに、ホローポイントが使用禁止というのもおかしな話ではある。

 絞られた引鉄を合図に、銃身から黒い塊が放たれる──それは真っ直ぐにグリズリーの眉間に向かって命中し、巨体は地面につっぷした。

 ベリルは近寄って息絶えた事を確認し、その遺体に手を添えて目を閉じる。

 すぐさま切り返し狩夢に向き直ると、1体が倒される処だった。残る1体を倒すため駆け出す。

「……いただきますって、命をいただきますって感謝の意味だったよな」

 見ず知らずの人に説教させてしまった……なんだか少し照れくさいけれど、信用していい人かもしれない。

 傭兵と聞いて、胡散臭いイメージを持っていた自分に苦笑いした。

「遅かったな」

「そうでもない」

 口の端を吊り上げた狩夢にしれっと応える。

「刃物で良い、形成を頼む」

「ああ? あ~ほら」

 白と黒のもやが剣に形を変えた。

「ダガーにしてくれと言えば良かったか」

「贅沢だな」

 眉を寄せて刃を短くした。

「すまんね」

 言ってダガーを受け取り、グリズリーの背後に回る。

 倒さなくていい相手なら良かったのだが……ベリルは目を細めた。巨大化されたグリズリーは凶暴性も増していて、もはや彼の意思が入り込む余地はなかった──瞬時に判断し決断したが、これが正しいとは思っていない。

 最善の方法ではあるが、どれが正しいかなど解りはしない。

 グリズリーの隙を突いてベリルは足下に飛び込み、足首に刃を走らせた。

[ギャオゥ!?]

 痛みで前足を振り上げた攻撃を避け、勢いの留まらない前足を掴む。その勢いを利用して、グリズリーの背中に飛び乗った。

 首の後ろに刃を突き立てようとした刹那──ダガーがグリズリーの爪に弾かれる。

「! チッ」

 軽く舌打ちをして、自分のナイフを取り出そうとした。

 その視界にコンバットナイフが映し出される。月刃に渡しているナイフと同じ形状のものだ、それが宙に浮いて手にされるのを待っていた。

 それを掴み、首筋に突き立てる。

[ガフッ!?]

 グリズリーはビクリと体を強ばらせ、ゆっくりと地に倒れていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ