*掛け合い戦闘
「何か来る」
「!」
ベリルの声に2人は辺りを見回した。
何か大きな足音が……耳をそばだてていた目の前に──
「! な……」
月刃は黒く大きな影にたじろいだ。
荒い息づかいの口から滴る唾液、そこから覗く鋭い牙。壁のごとく立ちはだかる巨体は茶色の毛に覆われ、その手足には大きな爪がずらりと並んでいる。
「グリズリーだな」
「5mほどありますけどね」
なんだってこの人はいつも冷静なんだろう……と思いながら、月刃はベリルに応えた。
「ポーラーベアでなかっただけましだろう」
「シロクマですか」
「で、どうするんだ」
狩夢の問いかけにベリルは思案する。
「1体ならば問題ないがね」
「……1体?」
何かを含んだ物言いに少年は彼を見やる。
すると──
「ああ、えーと……3体?」
少年は、さらに現れた2つの巨体に、ぼそりとつぶやいた。
同じく5mの図体に血走った黒い目は、3人を一様に見下ろし威嚇するように唸っている。
「1人1体か?」
狩夢はあごをさすってつぶやいた。それに若干、驚いたような瞳を少年が向け、ベリルは喉の奥から笑みを絞り出す。
「熊と闘った事は」
「あると思いますか」
訊かれた少年は唇に薄い笑みを浮かべた。
「だろうね。処で私は不死というだけなのだが、能力を知りたい」
「私は靄を使い、色んな形にすることが出来る」
狩夢は言いながら、白い靄は柄に、黒い靄は刃にと剣を形作った。
「なるほど」
確認して右にいる月刃に視線を送る。
「俺は……刃物を作れます。でもっ、ちゃんとイメージしないと失敗します」
少し唇を噛む様子に、まだ完成されたものではない能力だと理解する。
「狩夢、2体頼めるか」
「後で援護があるなら」
「月刃に防御を」
ベリルの指示に頷くと、白い靄を漂わせ少年の周囲にまとわりつかせた。ベリルはそれを一瞥すると、グリズリーに視線を戻し背後から30㎝ほどのコンバットナイフを取り出す。
「それを形成してもらいたい」
「ナイフ……」
どうせなら長い剣とかの方がいいんじゃ……? と考えたが、何か作戦でもあるのかとベリルに視線を投げる。
「かがんで形成を続けてくれ」
「続ける?」
「ひと振りずつ連続して形成し完成したものから私に投げ渡せ」
発して狩夢と目を合わせ右に回り込むと、1体がベリルに狙いを定めた。残りの相手をするため、狩夢は他の2体の注意を自分に引きつける。
「狩夢」
「なんだ」
黒い塊を形成しながら、ベリルに呼ばれて聞き返す。
「後で角を触らせてもらえないか」
「なんでだ」
「興味がある」
「……それだけか」
「それだけだ」
今までずっと無表情だったくせに興味あったんかい……あっけに取られたが、すぐ現状に思考を戻した。
しかしふと──
「私も知りたいことがある」
「なんだ」
「月刃は男か? 女か?」
「男性だ」
それ本人に訊いてよ……ていうか今頃!? 少年は、2人の背中に生ぬるい笑みを送った。
[グオアァァー!]
そんな3人の緊張感のなさに怒ったのか、グリズリー3体が揃って雄叫びを上げる。
「慌てなくて良い、形成したものを渡せ」
「解りました」
月刃は左に持ったコンバットナイフを見つめると、右の手に同じ形状のナイフを作りだした。
「あの」
「なんだ」
険のない物言いで視線を移さずに聞き返す。
「決めてもらった場所に作り出すことも出来ますけど」
「指示出来る状況ではない」
「そうですよね」
よく考えれば、彼の思う場所や位置に対応して形成するのは難しいじゃないか。それだけで神経を使ってしまう。
苦笑いを浮かべ、合図のように挙げられたベリルの左手に向かい、注意を払ってナイフをゆっくり投げた。
回転しないように投げられたナイフを一瞥すると、柄に手をかけ素早く遠心力を加えてグリズリーめがけ光が走る──
[グオォォー!?]
スタッ! と小気味の良い音がグリズリーの左腕に立ち、大きな叫びをあげた。
「ほう……」
その刃に感心した刹那、大きな破裂音が森に響く。そちらに顔を向けると、狩夢がライフルを手に白い髪を優雅に流して2体を相手にしていた。





