表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

*夢で遭いましょう

「勝てる気がしない……」

 月刃つくはは生ぬるい笑みを浮かべてつぶやいた。

 外見がベリルさんになったというだけで、なんだろうこの焦燥感は──相手に別の新しい能力が付いた訳じゃないのに。

「どうします?」

 狩夢カリムに意見を仰いだ。

「どうって、闘うしかないだろ」

「勝てると思います?」

「いやこれがまったく」

 はっはっはっ……と乾いた笑いを発する狩夢に目を据わらせた。

「誰のせいでしょうね」

「誰のせいだろうな~」

 そうしている間にも、唇の端を吊り上げてベリルがゆっくりと近づいてくる。

 どう闘えばいい。相手は不死を手に入れたんだ、どうやったって勝てるとは思えない……月刃は向かってくる相手を見据えて思案した。

 そのとき──

<ふむ、居心地はあまり良いとは言えんな>

『!?』

「え?」

 どこからか響く声に聞き覚えがある。

『バカな! 眠らせたはずだ』

「ほら、まだいたろ」

「何が“ほら”なんですか」

 しれっと天を差す狩夢に無表情な視線を送った。

『なんで眠らない!?』

 その刹那──頭を抱えたヘルシャーと同時に、空間が悲鳴を上げる。

『やめろ! この体はもう僕のモノだ!』

<そうしてやりたいのは山々だがね>

 虹色のマーブル模様が激しく揺れ、金属音は途切れることなく輪唱のごとく鳴り響く。

「どうなってるんですか?」

「激しい奪い合いかな。いや、違う」

 狩夢の言葉のあとに全てが停止した。


 白い空間にヘルシャーは佇む──

「なんでっ? どうしてだよ!?」

 訴えるように、眼前のベリルに声を上げた。

「少なくとも確実に失われる命があるならば従えない」

「じゃあ、あいつらは見逃すから!」

「信用に値しない」

 窺い知れない眼差しで発せられ、拳を握りしめる。

「僕の邪魔をするな!」

 剣を作り出しベリルに斬りかかったが、直前で見えない壁があるように鈍い金属音を響かせて刃が止まった。

「!?」

 そうだ、ここはベリルの意識下──こちらの思い通りという訳にはいかない。

「諦めて生きてるくせに! 不死を僕によこせよ!」

 もどかしさにベリルを睨み付け、届かない剣を力の限り何度も振り下ろした。

「そうしたのちに、お前はどうする」

「うるさい! うるさいうるさい!」

 剣を投げ捨て、その場にへたり込む。今にも泣き出しそうに弱しく背中を折り曲げ、こうべを垂れた。

 それをしばらく見下ろしていたベリルは、ゆっくりと近づき片膝をつく。

「嫌だよ……僕を置いていかないで」

 消え入りそうにつぶやき、自分の体を抱きしめた。

「本当の名は」

「──ジャック」

 その、なんの変哲もない名前に、いかほどの価値があったのだろうか。

「大切にすると良い」

「……うん」

 少年はベリルにすがりついて声を上げた。色のない空間が彼の哀しみを表すように、濡れた感覚を帯びる。

「1人にしないで」

「心配ない」

 か細くつぶやいた言葉に、柔らかな笑みを返した。

「ホント?」

 流す涙を拭い頷き、その額にキスをする。

 温もりに涙は止めどなく流れ、目を閉じた少年の耳に静かにベリルの言葉が降りる──お前の罪が赦されるまで、私と共に在れば良い。


「? どうなったんですか?」

 月刃は灰色の世界と無音の空間を見回し、狩夢に尋ねた。

「会議中かな」

 なんですかその表現……と月刃は眉を寄せる。

 そのとき、目を閉じて動かなかったベリルの瞳が開いた──エメラルドが2人を見つめ、小さく微笑む。

「! ベリルさん」

 ホッとして肩の力が抜ける。

 ベリルが2人の背後を示すと、そこには光が2つ並んでいた。

「それぞれの世界に通じている」

 奴が眠りに就くまでのわずかな間だ……と加え、向かうように促す。月刃は突然の別れに戸惑ったが、ベリルの笑みに同じように笑顔を返した。

 3人は視線を合わせ、無言で頷く。

 そうして、月刃と狩夢は光に足を向けた──あっさりしたものだが、彼らにとってはすでに充分なほどの時間を費やしている。


 そうして静かになった空間で、ベリルはゆっくりまぶたを閉じた。

 彼の周囲から、赤と青の淡い光が幾つも灯り上空へと消えていく──奪われた平行世界の彼らの存在も、これで戻るだろう。

 ヘルシャーが創造したこの世界も崩壊が始まる。

「諦めて生きている。か」

 クク……と喉の奥から笑みを絞り出した。

 そうならば、どれだけ楽なのだろうな──生憎と、諦めた事など一度も無いのだよ。諦めきれずに私は未だ、傭兵などと名乗っている。

「お前には感謝している」

 彼らに出会えた事は、私にとって幸いだった。これからも続く時間に、この記憶は潤いをもたらすものとなるだろう。

 眠れ、その傷が癒えるまで……神がいるというのなら、いつか赦される日が来るだろう。それまでは、終わる事のない器の中で待てば良い。

「再会はあるかね」

 皮肉混じりに発して、光すらも失おうとしている世界から消えた。



END

*最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。

 少しでも楽しんでいただければ幸いです。


 そして、お貸しくださった零夜さま、灰音 四音さまにも感謝です。とても勉強になりました!

零夜さま>http://mypage.syosetu.com/41047/


コラボ作品タイトル

零夜さま【揺り籠世界の見る夢】


※作中に登場する狩夢、狐雲の2人は零夜さまのキャラクター。月刃、小狼は灰音 四音さまのキャラクターです。これらのキャラクターは各人の著作権下にあります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ