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*引きずり出される過去たち

 コンバットナイフを取り出したベリルに、少年は素早く剣を形成し刃を交える。金属音が鈍く響き、互いに見合った。

『!』

 ベリルが左手を後ろに回したのを確認し、距離を取る。

『まったく、君は抜け目がない。そうだね……名前が無いと困るかな?』

 そう発すると、自身の胸に手を当て挑発的な視線を送った。

Herrscherヘルシャーとでも呼んでいただこうか』

「何を持ってしての君主か」

 ベリルはドイツ語で示された名に、半ば呆れて眉をひそめる。

『もちろん、今からなるのさぁ!』

 口の端を吊りあげ、誇らしげに挙げた手の向こうには──

「!」

 視界の端に光るものを捉えたベリルが体をスライドさせると、どこからともなく現れたナイフが彼の腕をかすめた。

 上手く避けたが、ベリルの手からナイフを弾く事が目的だったらしく、彼はそれを察してはいたが避ける他はなかった。

 喉の奥で舌打ちをし、右のバックサイドホルスターからハンドガンを抜く。それも同じように弾いてやろうと考えていたヘルシャーのニヤけた口元が驚きに彩られた。

 視界に捉えたものは──ベリルの左手に黒いもやが漂い、右手のハンドガンを弾いた頃には、それは形成されて自分へと向けられていた。

 避ける事も防御もままならず、引鉄を引く指の動きを見つめながら放たれるモノを待つしかない。

 破裂音と同時に、衝撃でヘルシャーの体が強ばり数歩あとずさりした。

「! バードショットか」

 放たれた弾を確認するように手の中のハンドガンを見やる。

 リボルバー式のハンドガンには散弾が充填されているらしく、さすがにベリルも若干、驚いてみせる。

『──っ』

 ヘルシャーは腹部を押さえ、狩夢を睨み付けた。

 狩夢はそれに鼻で笑い、勝ち誇ったように腕を組む。実際には不可能(効果がない)とされるものでも、彼にかかれば現実となる。

『よくも、やってくれる』

 唇の端を吊り上げ、声を震わせた。

 左手を軽く挙げると狩夢たち周辺の空間が歪み、無数のダガーが出現する。しかし、白い靄がことごとく弾き返した。

 ヘルシャーはそれに舌打ちし、次はベリルの周囲にナイフを形成する。

 今度こそ突き刺さると思った刹那──互いにぶつかる金属音はヘルシャーの目を丸くした。ベリルの体に沈み込むはずのナイフは、左右に浮遊している剣によって弾かれたようだ。

『バカな!』

 輝きを放つ、ふた振りのつるぎを凝視する。

『!? まさかっ』

 何かに気がつき顔を向けた先には、月刃が鋭い眼差しをこちらに送り右手の平を見せるように差し出していた。

 それに舌打ちする暇もなく、ベリルがそのふた振りの剣を手にするのが見えて苦い表情を浮かべる。

 剣の刃はヘルシャーへと真っ直ぐに向かい──

「……?」

 聞こえるかと思われた呻き声も金属音もなく、動きを止めたベリルの姿に2人は眉を寄せた。

『ク……ククク。君はやっぱり甘いよね』

 そこにいたのは赤い髪と瞳の少女、その細い首に食い込むはずだったであろう刃がピタリと止められている。

「あれは誰だ?」

 狩夢の問いかけに、月刃はただ首を振るしかない。

『少女を憎みこそすれ、どうしてその刃を止めるの?』

「憎む要素など無い」

『どうして? 死にたがっていた君を不死にした張本人じゃないか』

 その言葉に、ベリルの瞳が複雑な色を表した。

 それに気をよくしたのか、ヘルシャーの口元に笑みが浮かぶ。可愛い少女の顔は、不気味な微笑を湛えベリルを見上げた。

『そうだろう? 出生の秘密を、永遠にその胸に仕舞っておかなくてはならなくなったんだから』

 折角、死ねると思ったのに残念だったよね。

『それが運命だと、君はその時に自分でそう受け入れた』

 それでも、ミレアを憎まなかったなんてウソだ。

「何故憎まねばならん」

 起伏のない声に驚きつつも、優位に立っている事を示すように口角をつり上げる。

『……そうだったね。彼女の全てを救ったんだ、君はそれで満足なんだね』

 究極の博愛精神とでも言うのかい? 愚の骨頂だ! 少女は呆れて発し、肩をすくめる。そのあと、ベリルに睨みを利かせると元の姿に戻った。

『でも、君は神のための存在だと僕は言ったよね』

 ゆっくりと向き直り、その表情を誇張するように上目遣いにベリルを見やる。

『神が隣に座す者を自ら造り上げたとしたら? それを人にさせたとしたら』

「興味はない」

 一蹴に伏すようにベリルはつぶやき、彼はそれを意に介さず一瞥すると続けた。

『神が迎えに来る前に、君の不死は僕がいただく。欲しいのはその体じゃない』

 妙な言い方に狩夢と月刃は、いぶかしげに首を傾けた。

『君の不死は魂に依存している。だから、不死だけを奪うことは出来ない』

 魂を切り離せば不死は消え去る。

『そして、魂を苗床に体は構築されるんだ。現状維持を続けるはずの肉体の唯一、異なるのは記憶──肉体はいわば外部メモリなんだろう』

 魂は精神的、肉体的な全ての本体だ。外部メモリがバグを起こせば、バックアップしている本体にも支障を来す。

『君は魂までもが選ばれた存在なんだよ』

 完全な不死を手に入れる、絶対に……低くつぶやくと、ヘルシャーの体が徐々に大きくなっていった。

『君を取り込むことで、それは果たされる』

 人の形が膨らみを増していき、形容しがたい巨大な塊になる。

 2人はそれを見上げているベリルに駆け寄り、無表情な横顔を一瞥して声を詰まらせた。

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