*金と銀
「そのような目的ではない」
『君がどう言おうと、それだけの容姿と才能を兼ね備えた者が神のための存在でなくてどうするの?』
「造られた……?」
狩夢は眉を寄せベリルを見つめる。
『そうだよ、彼はあらゆる人種の遺伝子を分裂、結合、合成して人工的に造られた人間だ』
「本当なんですか?」
いぶかしげに問いかける月刃を一瞥し、ベリルは無言で銀髪の少年を見据えた。その表情は、狩夢たちが驚くほど何も表されてはいない。
『君は、自分が完璧だとは思っていないよね。でも、造った側にとっては、今の君こそが完璧なんだよ。完璧とは、全てが備わっていることじゃあないことくらい解ってるよね』
何者にも揺るがない精神、誰をも特別に愛さない感情はまさに神のために造られたものだ──そう恍惚に語る瞳には異様な輝きと、得も言われぬ“くすみ”のようなものが見て取れた。
『ベリル・レジデント「悪魔の器」と名付けられたのは皮肉からかな』
その言葉に月刃は怪訝な表情を浮かべ、狩夢は視線を向けずに応える。
「緑は悪魔の色とされている。レジデントは居住者って意味なんだろ」
「そうなんですか……」
あくまでも人間の考え方と単語の意味だけどな──という狩夢の言葉を全体で聞き取り、ベリルの背中を焦点も合わせず見つめた。
「他に言うことは」
『なに?』
起伏のないベリルの言葉に、銀髪の少年はやや目を見開いた。
「私の事などどうでも良い」
鋭い視線に同じく険しい目で見つめ返すが、すぐにフッと笑う。
『君はいつもそう言う。どうせそこの2人にも何かしら想ってるんだろう? 自分は愛されなくとも、憎まれても愛すことが出来るなんて幻想だよ』
そんな君には反吐が出る……銀髪の少年は言い放ち、残りの2人を見やった。
『僕が君たちの能力を凝縮すれば、具現化したものを固定させることも可能だ。だけど、死からはどうあがいても逃れることは敵わない。どんなに不死の種族も、滅びからは逃げられない』
唯一の完全なる不死──僕はそれが欲しいんだ。
不気味な笑みがベリルを見下ろし、2人はあまりの情報に戸惑うしかなかった。
「狩夢、月刃」
静かな声にハッと我に返る。
「元の世界に戻りたければ奴を倒さねばならない」
「そうだな」
ようやく現状を把握した狩夢が応え、月刃も頷く。
空間は相変わらず白いものの、銀髪の少年との高低はいつの間にか無くなり同じ視点に立っていた。
その距離は変わらず10mほどだが、自分たちの能力を有している相手と同等に闘えるのか不安が過ぎる。
数人分の能力を持つ相手が有利なのは確実だ。
思うに──
「サポートを頼む」
言ってベリルは駆け出した。
「……もしかして、バレてたかな?」
「バレてたんでしょうね」
ここは闘い慣れした彼に頼む方が、という意識は見事に悟られていた。
今までのどこか緊張感の無かったムードは一変し、張り詰めた空気が充満する。どんなに和んでいても、ここから脱出して元の世界に戻らなければ意味がない。
『僕と闘おうなんて無茶もいいとこだね』
でも──それが君なんだろうね。
近づくエメラルドの瞳につぶやき、翡翠を細めた。





