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*打開策を練ろう

「試しに壁を攻撃してみるか」

「そうだな」

 狩夢は、しれっと頭をかきながら口を開くベリルに視線を向けず応えると、黒いもやを漂わせ徐々に形を成していった。

「ほう」

 無表情は崩れないんだな……バズーカを形成した狩夢に感心して小さく唸るベリルを、少年は半ば呆れて眺める。

 いくら無表情と言われることがある自分でも、さすがにここまで表情が変わらないことはないと思う。

「っしゃあ!」

 狩夢は黒い円筒を担ぎ、壁に砲口を合わせた。

「あーはっはっはっ! 砕け散れ!」

 突然の高笑いに、月刃はビクッ!? と体を強ばらせる。

「面白い変化だ」

「感心してる場合ですか」

 2人は、高笑いと共に壁に砲弾を浴びせ続ける狩夢の背中を見つめた。砲弾は尽きる事が無いのか、続けて放たれている。

 充填じゅうてんの必要が無いというのは便利だな……ベリルはさらに感心した。

「もう良いぞ」

 しばらくして軽く手を挙げ制止すると、ゆっくり壁に向かう。

 ダークグレーの壁は砲弾により多少汚れてはいるものの、大きなダメージは無いようだった。ベリルはそれに小さく溜息を吐き出す。

「だめか?」

 バズーカだった靄を散らしながら問いかける。

「どうだかな」

 言って腕を組むベリルに少年も近づき、壁を眺めた。見たところ傷の一つも無いようだが、どうして彼は解らないような言い方をしたのだろうか。

「内と外では状態が異なる事はよくある」

「!」

 考えを悟られたのか、ベリルは指で壁をコンと示しながら少年に応えた。

「この世界は実体と意識からの創造で成り立っている。この空間は具現化されたものだが、意識に依存している」

「えと、つまり?」

「見えているものとは違うかもしれないと?」

「うむ」

 壁に背を預けて応えると、天井を見上げた。

「実際に感じている空間の広さと同じとも言えん」

 言われればそうかも……月刃は眉を寄せて同じように見回す。

「例えばだが、彼を壁に投げ飛ばした場合はどうなるかな」

 ベリルは月刃を示し、思案するように壁から遠ざかった。

「!?」

 月刃はギョッとして思わずベリルの後を追い、狩夢は壁の側でそれに応える。

「つながっていれば壊れるかもな」

 怖い、2人の視線がとても怖い……少年は何かの期待が込められた2つの視線に後ずさりした。

「そ、それなら狩夢さんだって」

「お? そうきたか」

「上手い返しだ」

 そこ褒められても……月刃は、無表情に発したベリルを見やる。

「で、どうするんだ」と狩夢。

「実行してみよう」

「えっ!? ちょっ! まぁ──っ!?」

 ベリルに首根っこを掴まれ、ひょいと体が浮いた。そんな力があったのかと驚きつつ、背負い投げの要領で壁に投げ飛ばされた。

「わああああっ!?」

 さすがにこれは大声を出さずにはいられない。「ぶつかる!?」と、強く目を閉じた瞬間──今度は狩夢に掴まれて勢いよく止まり、内蔵が飛び出るかと思うくらいに気持ち悪くなった。

「どうだ」

 壁に近づくベリルに問いかける。

「ふむ、多少だが変化がある」

 こっ……この2人の阿吽あうんの呼吸は一体なんだ!? 涙目になりながらベリルたちの背中に睨みを利かせるが、当の2人は意に介さず壁を見て話し合っている。

「ふむ」

 小さく唸ったベリルは、再び壁から遠ざかり腰の後ろからリボルバーを取り出した。

 ゆっくりと照準を合わせ、引鉄を絞る──破裂音とほぼ同時に壁に金属がぶつかる音が響き、そのまま聞き耳を立てていると徐々に聞こえてくる何かが割れるような……

 そうして、小気味よく弾けるように空間が裂け、そこに広がるのは何もない白い景色だった。

 上下左右にただ広がる白い空間は、何故か3人の足をしっかりと重力があるようにその場に留めている。

 空間浮遊のマジックに似ているが、周囲の空間に果ては見えない。

「抜け出せたな」

「うむ」

「そうですね……」

 俺はこの2人に殺されるような気がしてきた。考えたら、普通の人間って俺だけじゃないか。1人は人間は人間でも不死だし、もう1人は人間ですらない。

「ベリル」

「なんだ」

 険のない物言いで聞き返すと、狩夢は自分の黒い角を指差した。

「触らなくていいのか」

「ああ、忘れていた」

 つまりは、触っても触らなくてもどっちでも良かったのだが、触らせてくれるのならと手を伸ばす。

 彼には『忘れる』という事はない──忘れられないという事は、時として厄介なものだ。

 律儀な夢魔に視線をちらりと送り、角に目を移す。数秒ほど感触を確認すると、「すまんね」と礼を述べて手を離した。

「もういいのか」

「うむ、実際のものでない事は理解した」

「! よく解ったな」

「質感とそこから伝わる気配でね」

「? どういう意味ですか?」

 月刃が小首をかしげると、ベリルが淡々と口を開いた。

「あれはエネルギーの凝縮体だろう。体内では収まりきらなかった力の具現化だと推測した」

「恐れ入ったよ」

 口笛を鳴らし狩夢は感心した。

「それで、あいつの居場所はわかりますか?」

 年寄り同士の会話なんて聞いてられるかと、月刃は話を戻す。

「2時の方向、およそ60度からプレッシャーを感じる」

 2人は、手で示された方向──右斜め上に顔を上げた。

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