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第3章

第3章 紅に染まる華 チニソマルハナ


僕は縁が切れたかと思ったけど神に祈りが通じたのか、僕と聖架の縁は切れることはなかった。

病弱で両親も事故で早くに亡くしてしまったという聖架は、幼い頃から仕えてくれているという乳母と数人の使用人以外とはほとんど関わったことがなく、外の世界を知りたいとの事で僕を度々家に招待してくれた。まるで夢みたいな話だった。

だけど本当に聖架は病弱で、晴れた明るく気持ちの良い日にはまったく外に出れなかった。

輝かしい日差しの下でトムと戯れる美しい聖架を見れないのは残念だった。

(初めて会った次の日に聞いたけど犬がダメという訳でもないらしく、あの時は見慣れぬ人に驚いただけらしかった。)

トムはいつも僕を困らせるのが得意なのに聖架といる時だけは嫌に良い子で、トムにも聖架の優しさが伝えわるのだと思った。


まさか初めて会った時、すでにトムは聖架の中に潜む闇に気付いていただなんて、この時の僕には知る術もなかった。君とのことを思い返してる今、やっと分かることのほうがはるかに多いのだから。


僕と聖架は次第に親しくなっていき、気付けば明日の約束などせずに学校帰りには決まって聖架の家に行くようになっていた。

その日学校であったこと、家であったことなどを話すだけで聖架は笑ってくれた。

僕は聖架のあの笑顔を見るたびにどんどん惹かれていっている自分に気付いた。だけど中学生の時の僕が分かるほどに、聖架と僕は身分が違っていた。だけど惹かれていくのは止められないし、胸に秘めているだけなら問題はないと思っていた。

だけど幼い僕の恋心は隠しきれていなかったらしく、乳母さんに家に来るのを控えて欲しいと遠回しに言われたことも何度もあった。でも僕が行かなくなると乳母に聖架が問い詰めるらしく、しばらくしたらまたいつものように冷条家の門をくぐっていた。そんな風に聖架が僕を庇ってくれる度に僕は、少しは気持ちが通じ合っているんだと喜んだものだ。


聖架・・・、今も君と僕の心はつながっているよ。

こんなに離れていても今もこうして、隣りに君を感じることができる。


まるで「ロミオとジュリエット」だね、と聖架と言ったことがある。その時に聖架は「あれは身分違いの恋じゃなくて、敵対しあった家の子供なのよ。私達とはまた少し違うわ。身分違いの恋の話はシェークスピアなら真夏の夜の夢かしら。最近ならタイタニックでしょ?」と言った。「ロミオとジュリエット」をまともに読んだ事がない僕は演劇部があらすじで説明された、身分違いの悲しい恋の物語というのを鵜呑みにしていた。聖架の知識の深さを知って、改めてお嬢様なんだと思った。

それと同時に少し距離が遠くなった気がして、ふと寂しくなった。

頭の中はショックで真っ白だったのに、僕の体は勝手に動いて・・・イヤ、本能のままに動いて今までしてはいけないと理性で食い止めていたことをしていた。

聖架の腰に手をそえて体を密着させ、聖架の血のように赤く美しい唇に自分の唇を重ねていた。そのことで更に僕の頭は白くなった。だけど次の瞬間・・・。


ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン・・・


聖架の部屋の時計が6時をつげた。もう家に帰らなくちゃ。鐘の音で正気を取り戻した僕は聖架に謝ろうと唇を離そうとした。そしたら離れた唇を聖架がもう1度引き寄せ、

「また明日ね。」と微笑んだ。

永遠に叶わぬと思った100年越しの恋が叶った気持ちの僕は、浮かれた心で家に帰り明日の放課後を心待ちにした。でもまさか、僕達があんな風に引き裂かれることになるなんて・・・。

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