魔草の毒
「おっとすまない、大事なことを忘れていた、開けてくれ」
やっと一息ついたのに、スヴェルトはそう言って扉をノックした。
「はい、何ですか?」
部屋から出ると、続いてルーシャもすぐ隣の部屋から出てくる。
「君たち、魔草の毒を飲んでいるな?」
「え……?」
心当たりがあるのは、瞳の色を変える薬だ。
あれは毒だったのかと初めて知る。
「瞳の色が変わっているが……他に悪いところはなさそうだな。何をした?」
「それは……」
この状態に至るまでの、幼い頃からの経緯を全て話した。
「なるほど、ユリウスが作ったのか……よくあの孤児院でここまで質の高いものを作れたな、何の知識もなしに」
褒められたのは、ちょっと嬉しい。
「将来は研究職とか、向いているかもしれないな。だが……今後は服用を禁止する」
「え、なぜですか!?」
さっきはあんなに褒めてくれたのに、と抗議する。
「言っただろう、それは毒だ。体に少なからず害が残ることは間違いない。魔力による身体への影響は、魔力でしか消すことができない。魔力で消そうにも手間がかかるからな」
「わかりました……」
じゃあ、と言ってスヴェルトが俺とルーシャの顔の前に手をかざす。すると、なにかすうっとするような心地がした。
俺たちが顔を見合わせると、さっきまで黒かった瞳が元の碧眼に戻っている。
「「すごい……!!」」
いつもは元の状態に戻るまでに二日ほどかかるのに、スヴェルトは一瞬で治してしまった。
これまで魔法とは関わりのない世界で生きてきたので、正直なところスヴェルトの話はピンと来なかった。
魔法が使えたり魔力を持っていたりするのは、お貴族様だけだと聞いたことがあるけど――
意外と身の回りにも魔法はあったのかもしれない。
「まあ、今後はそれを使う必要もないだろう。心配するな、何かあれば私が必ず助けてやる。約束だ」
「スヴェルトさんがそう言ってくれるなら、少しは安心できそうです」
スヴェルトは、ふっ、と頬を緩めた。
「それは良かった。そうだ、私のことは呼び捨てにして構わない。これからはスヴェルトと呼んでくれ」
「お貴族様を呼び捨てにするなんて、そ、そんなことできません……!!」
ルーシャがぷるぷるしながら言った。
「私が呼び捨てにしてほしいと言っているんだ。子供にさん付けされるほうがむず痒い」
スヴェルトはこれから用があるからと、踵を返してそのまま立ち去ってしまった。




