領主の城
「ユリウス、ルーシャ、そろそろ到着する。起きなさい」
スヴェルトの声が聞こえた。
「あい……」
外を見ると綺麗な建物がたくさん建っていて、見たことのない世界が広がっていた。
「ここは、どこですか……?」
ルーシャが尋ねる。
「ここはアステール領の中央街だ。主に貴族が住んでいる」
そう聞いて、少し身を固くしてしまう。
もしかしたらとは思っていたけど、やっぱりお貴族様がたくさんいるところだった。
「君たちに危害を加える者はいないから、安心して良い。私の庇護下にある者に手を出す愚か者など、そういないだろうからな」
そう言い切れるなんて、スヴェルトは一体何者なんだろう……?
外の景色を見ながらあれこれ考えていると、馬車が止まった。
「着いた。降りるぞ」
言われるがまま馬車を降りると、そこには絵本でしか見たことのない、いや、それよりも大きくて、立派なお城が待ち構えていた。
「あの、このお城は、一体……?」
澄ました顔で、スヴェルトは答える。
「ああ、ここは領主の城だ」
「「領主の城!?」」
俺たちの驚いた声がぴったり重なった。
「じゃあ、スヴェルトさんは領主様…?」
恐る恐る聞く。すると、
「ふ、私は領主じゃない。領主なのは父だ」
と笑って返されてしまった。
「お父様が領主なら、次期領主、ということでしょうか……?」
ルーシャがさらに質問する。
「まあ、多分そうだろうな」
予想に反し、スヴェルトにしては曖昧な返答だった。
やっぱりお貴族様には、後継者争いなど問題があるのだろう。
これ以上聞くのは無粋な気がして、俺たちは閉口した。
「城を簡単に案内するから、一旦その小屋で着替えてきなさい」
そう言ったスヴェルトから手渡されたのは、今まで間近で見たことも着たこともないような、上等な服だった。
「これは、パーティーか何かの衣装……?」
俺たちは二人そろって首を傾げる。
「そんなわけないだろう。これは普段着だ。庶民の格好で城内を歩かせることはできない」
「はあ……」
前からわかっていたことなのに、身をもってお貴族様と庶民の格差を痛感し、小屋というには大きすぎるような小屋に入った。
「着替えてきました」
想像の倍以上の時間をかけて、俺たちは着替えを終わらせた。
庶民の服は十秒もあれば着替えられるのに、お貴族様仕様の服は無駄にひらひらや紐がたくさんついていて、それはそれは着替えにくい。
ファスナーなんて、一人で上げられるように出来ていない。もう十六歳目前なのに、俺たちはお互いの着替えを手伝う羽目になった。
「本物の貴族みたいだな、なかなか様になっている。案内をするから着いてきなさい」
スヴェルトは心にもなさそうなお世辞を述べて、城に入っていった。




