初めての遠出
俺たちは、初めて孤児院から遠く離れた場所に来た。
今まで孤児院周辺と、せいぜい近くの街くらいしか訪れたことがなかったので、見たことのない知らない風景にワクワクする。
馬車の揺れにも慣れて、この旅を少し楽しめるくらいにはなってきた。
「そういえば、君たちの名を聞いていなかったな。私はスヴェルトだ」
「ユリウスです。妹はルーシャ」
「ユリウスと、ルーシャか……わかった。では、君たちはどの程度この領地のことを知っているか?」
返答に詰まる。今まで孤児院や街の図書館で様々な書物を読んできたが、主に物語の本が中心で、他はあまり手をつけてこなかった。ルーシャも似たようなものだろう。
「たまに新聞を読むことはあるけど、詳しくは……多分、普通の人たちより無知だと思います」
スヴェルトは少し笑った。
「さっきの威勢のいいユリウスはどこに行ったんだろうな? 謙遜するなんて、まるで別人だ」
「あれは本当に必死で、口が脳みそを追い越してきてしまっただけなんですっ! こっちの俺が普段の俺なんです……!!」
緊張のせいか黙ったままだったルーシャも、口を開いた。
「兄は、本当はすごく優しくて、いつもなら絶対にあんなこと言いません! さっきのは、ただの上手な演技ですっ!」
妹にまで庇われて少し恥ずかしかったが、本来の俺は本当にこれだ。
「わかったよ。まだ到着まで随分時間もあるから、この領地や国のこともいろいろと教えてやろう」
「それは、ありがとうございます」
スヴェルトの、社会学習の講義が始まった。
「まず、私たちのいるこのアステール領はシャウムロイズ王国で最も大きな領だ。シャウムロイズ王国には、アステールを含めた七つの領がある」
国が七つに分けられる話は、いつか本で読んだことがあった。位置関係は覚えていないけれど。
「それぞれの領に役割があるが……君たちは覚えなくても問題無いので、詳細はまたいつか。それより大事なのは、この周辺の国々との連合体制だ。シャウムロイズ王国は、隣国であるハイデンダット王国、それからコンヴァリオール王国と仲が良い。この三国で、助け合って世界を渡り歩いているようなイメージだ」
「へえ、国にも仲良しとかあるんですね」
「もちろんだ。逆に、仲の悪いところもある……」
スヴェルトが少しだけ、目を伏せた。
「この三国全てと隣接しているコーゲンス帝国とは、非常に相性が悪い……というか、戦争をしていた。あまり思い出したくないので、今日はのところはここまでにしよう」
聞かなくても、スヴェルトにっとて戦争はすごく辛かったことなんだと何となくわかった。
もしかしたら、誰か大切な人が犠牲になったりしたのかもしれない。
「ユリウスもルーシャも、疲れただろう。到着までしばらくかかるから、仮眠を取った方がいい」
「はい、わかりました」
「ああ、おやすみ」
そう言って、スヴェルトもそっと目を閉じた。




