孤児院との別れ
「準備、終わりました」
ルーシャと共に、孤児院を出る。
長い間お世話になった孤児院とこんなにあっけなくさよならするなんて想像もしていなかったけど、覚悟は決めた。
「来たか。ではすぐに出発しよう。周りの者たちに別れの挨拶は済ませたか?」
「それは……」
お貴族様を待たせるわけにはいかないと思い、挨拶もなしに慌てて飛び出してきてしまったことに今更気づいた。
「まだ時間はあるから、今からでもしてくるといい。もう会えなくなるだろう」
そうか、もうここの人たちとは会えなくなるのか……
一抹の寂しさを覚える。
俺たちはもう一度、孤児院へ戻った。
――が、挨拶はあっという間に終わってしまった。
今まで当たり前すぎて気にも留めていなかったが、俺たちにはいわゆる“仲の良い友人“のような間柄の人がいない。
孤児院には、家族と別れた子供が入ってくる。
理由は死別、貧困など様々だが、親からの愛情に飢えた子供がほとんどだった。
だから兄妹といえども仲の良い家族を持つ俺たちを、羨むとともに妬ましいと感じる子たちは多かったのだろう。
兄弟姉妹で孤児院にくる子たちがいないわけではなかったけど、極端に少なかったし、俺たちのように仲良くしている子たちは見たことがなかった。
家族と離れ離れになる苦しみを知り、慣れない環境に身を置くことで、他人を寄せ付けず心を閉ざす子供たちは多い。
俺たちはお互い以外の家族の記憶がないから苦しみはあまり感じていなかったし、孤児院での生活が当たり前だったので、今まで卑屈にならずに生きてきた。
よく考えれば、俺たちは孤児院で浮いた存在だったようだ。
あまり深く考えずにここまで来れたのも、ずっとルーシャと一緒だったからに違いない。
顔も知らない親か誰かに、俺たちを一緒に預けてくれたことを少しだけ感謝する。
今までのお世話になった院長をはじめ、数名の職員さんたちに今までのお礼を済ませて、俺たちはまた外の馬車へ向かった。
「お待たせしてすみません。終わりました」
「いや、思ったより早かったな。君たちの気が済んだなら良い」
この人は、随分俺たちを気遣ってくれるようだ。
これからどうなるのか不安で仕方なかったが、多分大丈夫だ、という安心感が少し生まれてきた。
「はい、大丈夫です」
「そうか。じゃあ馬車に乗れ。行くぞ」
初めて乗った馬車はふかふかしていて、でもガタガタするのが気持ち悪かった。
だけど、何だか悪い気はしなかった。




