星を相手にする仕事
「こうやって地面に魔法陣を描いて……ほら、これで何ができると思う?」
ディアレイが芝生の上に浮かび上がらせたのは、ほんのり白く光る魔法陣だった。
「うーん、瞬間移動とか?」
ルーシャは期待に満ちた眼差しで魔法陣を見つめる。
「残念。これは僕がほんの少しだけ元気になる魔法陣です」
「へえ……」
ちょっとだけ元気になるってなんだ? なんだかもやっとしててしまりがないな。瞬間移動とかが本当にできるなら素直にすごいと思ったのに。
「なんだそれって思ったでしょ。これはちょちょいと作れる簡単な魔方陣だけど、ちゃんと時間かけて細かい模様をいれたら、もちろん転移魔法もできるよ」
やっぱりできるのか。まあ、今ディアレイに消えられても困るのでやって見せてくれとは言わないけど。
「お、魔力回復の魔方陣か。私も入っていいか?」
「へっ⁈」
びっくりして振り返ると、俺の後ろにスヴェルトが立っている。音もなく背後に近づかれていたようで、全く気づけなかった。
「お疲れ様です、スヴェルト様。寝起きですか?」
「ああ。今日は仕事があるからな」
仕事があるから、今の今まで寝てた……?
「スヴェルトの仕事って何……?」
あ、口に出てた。
「私の仕事は夜のほうがやりやすいんだ。“星掬い“といって、夜空の星を相手にする仕事だ」
星を相手にするって、どういうことだろう。意味が分からない。
ルーシャはスヴェルトを見てポカンとしていた。
「この国は、星の力を頼りにして成り立っていると言っても過言ではない。星の力を使って、私たちは国を豊かにしているんだ。このアステール領は国のために星の力を“掬って“くる役割を担っているから、今日は私が星掬いに行くんだ」
何となくわかったような、わからなかったような。
「想像するのは難しいだろうから、今夜遅くまで起きていられるなら少し見に来るといい。二人には……“星の魂“を見せてあげられるかもな」
「「星の魂?」」
俺とルーシャの声が重なる。
「星の力は星の魂から湧き出るんだよ。しかも、星の魂は……選ばれた人たちにしか見えないんだ」
ディアレイが説明してくれた。
……俺たちは、星の魂を見ることができる、選ばれた人たち?
よくわからないけれど、見れることなら見てみたい。その、星の力が湧き出る星の魂を。
「じゃあ、今夜見に行ってもいい?」
「もちろんだ。ケルトスに準備させるから、それまで仮眠しておくように」
未知の体験への期待に、今から胸が高鳴った。




