魔法の杖
あっという間に昼食の時間になり、俺たちは魔法を使う練習をしながら談話室でケルトスを待った。昼食はサンドイッチらしい。お貴族様もサンドイッチを食べるのかと何故かほっとした。
「あんまり魔力を使いすぎると具合悪くなるから、気をつけてね」
必死で自分の手と向き合っている俺たちを、ディアレイは微笑ましく見守っている。
これが年上の余裕というやつか。いや、魔法をそつなく使える貴族の余裕かもしれない。
何となく俺はディアレイに敵対心を覚えていた。まだ出会ってから半日も経っていないけど、優しく俺たちに接してくれるし、面倒見は良いし、何でもできる兄貴分であることに間違いはない。
気になることがあるとするならば――ルーシャの態度だろうか。
今まで俺が兄として、たった一人の家族として接してきたのに、この数時間でルーシャはめちゃくちゃディアレイに懐いてしまった。
孤児院ではみんな自分は世界一可哀想、みたいな悲壮感を漂わせていてある意味自己中心主義だったので、他人と関わろうとしない人たちが多かった。だから俺たちは兄妹でいることが多く、それで事足りていたので人間関係が希薄だったのだ。
「ねえねえディアレイ、魔法の杖とか箒って、本当にあるの?」
ルーシャは目をキラキラさせてディアレイに質問する。今まで俺以外にそんな顔を見せたことがあっただろうか。
「もちろん、みんなそれぞれ自分の杖を持ってるよ。箒は杖の形態を変化させて使うんだ。昼食が終わったら、また庭に行って見せてあげるよ」
「本当⁈ やったー!」
……まあ、魔法の杖とかは俺も興味があるし、またディアレイに教えを請おう。
「杖って、どういう風にできてるの?」
魔法の杖なんだから、やっぱり職人さんが一本一本丁寧に仕立てたりするんだろう。
「杖はね、魔法の力が宿っている樹木を削り出して作られるよ。つまり、細胞の核に魔力が宿っている木を使う。その時に、特別な短剣で自分の魔力をたくさん込めながら作業しなきゃいけないから結構大変なんだ」
「へえ……」
自分で作れるんだ、何か意外。
「杖はさっきより繊細な技術が求められる魔法に使うから、多分二人にはまだ使いこなせないと思う。でも自分の杖は自分で作らないと使えないから、今度一緒に作りに行こうか」
「うん! 自分の杖欲しい!!」
俺たちはケルトスが用意してくれた昼食を食べたあと、また中庭へ戻った。




