貴族の友人
「おはようございます。朝ですよ、ユリウス様」
人の声が聞こえてうっすら目を開けると、ケルトスが俺の顔を覗き込むようにしてベッドの脇に立っていた。
「ぅえ……あー、ここ、お城かぁ……」
「ご快眠のようで安心いたしました。お召し物をこちらに置いておきますので、着替えたら談話室にお越しください。ルーシャ様はもうお見えですよ」
「はい、わかりました……」
寝ぼけまなこを擦りながら着替える。
おや? 昨日よりちょっと着やすいような。昨日の着替えの時間が長すぎたせいで配慮してくれたのかもしれない。
ケルトス、めっちゃ有能。
談話室に向かうと、ルーシャがすでに誰かと話していた。
俺たちと同い年くらいの男?後ろ姿しか見えないが、 スモークグリーンの腰まである髪に目がいった。
「おはようございます」
声を掛けると、男が振り返る。
「おはよう、噂のユリウスだね? 僕はディアレイ。スヴェルト様の側近です」
「ディアレイはね、私たちより一つ年上なんだって。スヴェルトが、歳の近い人がいたほうがお城でも何かとやりやすいだろうからって配慮してくれて、これからしばらく一緒にいてくれるみたい」
「へぇ……」
気の抜けた返事をする。しばらくって、どのくらいだろう。まあそれは別に良いんだけど、なんかルーシャがいつもよりキラキラしてない? いや、気のせいかな。
「身分とか年齢のことは深く考えず、友人として仲良くしてほしいな」
ディアレイは優しい笑みを浮かべる。
まあ、悪い人ではなさそうだし、スヴェルトの側近なら心配ないか。
「よろしくお願いします……」
「友達だから、敬語はナシで」
「ああ、はい、うん」
「ふふ、やったー」
なんか拍子抜けしてしまう。お貴族様ってもっとお高くとまってて、平民を見下した感じで接してくるものだと今までずっと思ってきたのに、いや実際そんな人たちしか見たことなかったのに、スヴェルトの周りの貴族たちはそんな感じが一切しない。
――どっちが正解なんだろう?
孤児院にくる貴族が悪い奴らばかりで、本当はこんなにいい人たちのほうが多かったのかな。
「……お貴族様にも、いい人たちっていっぱいいるんだな」
考えていたことが口に出てしまった。
「そう言ってくれたってことは、僕はいい人認定されたってことでいいのかな? 嬉しいなー、ありがとう、ユリウス。でもね、人の良し悪しは身分で決まるものじゃない。貴族には、少なからず悪い人たちがいる。もちろん、平民も同じ。特に今、ルーシャとユリウスがここにいるのはすごく特殊だから、他の貴族たちがどう思うかわからない。何か企んで悪さをする人たちがいるかもしれない。そういう人たちから守るためにも僕はいつも君たちのそばにいるから、いつでも遠慮なく頼ってね」
ディアレイの優しさが心に浸みる。
「うん、わかった。お世話になります」
「あは、これからよろしくね」
俺たちは心強い貴族の友人を手に入れた。




