お城の夕食
「失礼します。夕食をお持ちいたしました」
ずっとスヴェルトの近くにいた側近と思われる男が、俺の部屋にやってきた。
期待通りのご馳走の匂いが空腹を刺激する。
「申し遅れました。わたくしはケルトスです。以後お見知りおきを。スヴェルト様同様、わたくしのことは呼び捨てで構いません」
暗めの茶色の髪に、赤色の瞳が印象的だ。
「夕食の後、スヴェルト様から大事なお話があるそうです。ルーシャ様とともに、談話室でお待ちください」
「……わかりました」
大事な話とは、何だろうか。
ここに来てさほど時間も経っていないのに次から次へとびっくりすることがあって、脳も疲れている気がする。できれば明日がいいのに、と思うが、もちろんお貴族様には逆らえない。
「ルーシャと、談話室で食べながらスヴェルトを待ってもいいですか?」
ケルトスは少し目を細めた。
「ええ、問題ありません。とても仲がよろしいのですね。夕食はわたくしが運んで差し上げましょう」
「いや、それくらいは自分でできますから!」
「お二方のお世話はわたくしが責任をもって行うことになっておりますので」
ケルトスはひょいと夕食を持ち上げると、ルーシャにも声をかけて談話室へ向かった。
なんだかちょっと笑顔が怖い。でも多分、あの人は元からああいう顔なんだと思う。敵意は感じないし。
談話室につくと、ケルトスは丁寧に夕食のメニューを説明してくれた。
「今日はお二人が城で初めて夕食を召し上がられるということで過度な緊張をされないよう、食べやすく、質素なメニューになっております」
期待通りの豪華なメニューだと思ったのだが、これでも質素なのか。流石はお貴族様、俺の想像を易々と超えてくる。
「左から順に、白米、シーザーサラダ、煮込みハンバーグ、オレンジとなっております。マナーはお気になさらず、気を楽にしてお召し上がりください」
……白米?初めて見た。
白くて縦長の粒々がたくさんお皿の中につまっている。
「白米は初めてですよね。スヴェルト様の好物なんです。外国から輸入した貴重な食材ですよ」
それならおいしいこと間違いなさそう。
「いただきます!」
ルーシャと一緒に、人生で一番のご馳走を楽しんだ。




