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vol.8

「・・・と、とりあえず、僕は一体どうすればよいんだ・・・?校長先生って、どんな人なんだ?僕はとんでもない魔女に目をつけられてしまったのか?」

「校長先生はね、とってもすごい魔女なんだよ!たっくさんの呪文知ってるし、たっくさんの魔女や魔法使いとお友達なの!今ね、全日本魔女学会理事長も務めちゃってる感じなのだぽん!」

「・・・へぇ、そりゃすごそうな人だな」

 

 魔女って言ってるってことは、女の校長先生なのだろう。どうやら僕に会いたいそうだが、正直言って、僕は絶対に会いたくない。そもそも、僕は最初はマロンに関わる気は全くなかったのだ。マロンが僕について色々知っていたから、ズルズルと喫茶店にまで来てしまったけれど・・・。それに、それにだ。マロンには悪いが、僕は魔術なんてこれっぽっちも信じてはいない。東大受験浪人を5年もやっていれば、奇跡やミラクルなんて信じなくなってしまうのだ。それに、僕には霊感もなけりゃ、アンビリーバボーな経験をしたこともない。ビビディ・バビディ・ブー学園なんて、そんなへんてこが学校が本当に存在するのがどうかも疑わしかった。今でも半分くらい、マロンは本当に頭がおかしいんじゃないかと思っているのだ。


「悪いけど、僕はその校長先生とやらに会うのはパスだな。僕に会いたがってるのはわかったが、生憎僕は会いたくないんだ。変な連中に関わるのはごめんだね。僕は、今から岐阜に帰る予定なんだ。もう6時だし、暗くなる前に早く帰んだな。それじゃ、短い間だったけど、受験終わりの良い気分転換になったよ。ありがとな。さよなら」


僕は、そう言って、飲み終わったカップを持って素早く立ち上がった。マロンが、「あ・・・英司くん・・・」とつぶやくのが聞こえたが、無視して歩き出す。ごめんな、マロン。僕は、変なのに関わる気はないんだ。そうだ、でも・・・ひとつだけ。僕は振り向いて、マロンに最後の質問をした。


「なぁ・・・マロン。僕を線路に落としたのは、あれはわざとだったのか?」


 ・・・マロンは答えない。下を向いたまま、なんだか一生懸命何かをこらえているようだった。泣いているのかも、しれなかった。僕は再び席につき、マロンの姿をしっかりと見た。


「僕さ、マロンが僕を線路に落としたとき、一瞬、あ、このまま死んでもよいかなって思ったんだ。僕、東大受験、結局5回も失敗してさ。母さんにもたくさん迷惑かけちゃてるから、僕みたいな奴は死んだほうが良いって思ったんだ。でもさ、マロンといた今日のこの数時間、すっごく楽しかった。マロンの笑顔に少しだけ、癒された。ありがとうな。すげー感謝してる」

「・・・えい、じ、くん・・・」

「だから、僕をわざと線路に落としたんだとしても、僕はマロンを怒ったりしないよ。だから、聞かせてくれ。僕を線路に落としたのは・・・わざとだったのか?」


 僕は、わざとだって言って欲しかったのかも、しれなかった。そうしたら、マロンが僕とのつながりを意図的に作ったことになるから。


「・・・えい、じ、くん・・・わたし、・・・わ、わたし・・・」

「ん?どうし・・・・た!!!!?お前、顔が土気色だぞ!!!?」

「英司くん!わたし、わたし、いやーーーーーん!!」

「お前、もしかして、ウンコしたいのか!??何恥ずかしがってんだよ!そんなことしてたら、出ちゃうだろ!早くトイレ行ってこいよ!」

「わたし、わたし、ウ・・・ウンコ・・・なんて、出たことないぽん!」

「何嘘ついてんだよ!早く行ってこいよ!」

「あーーー!!英司くん、わたし、お花摘みに行ってくるだぽん!ちょ・・・ちょ、ちょっと、待っててだぽーーーーん!!!」

 

 肛門のあたりを押さえながら、必死でトイレに向かっていくマロン。・・・なにがお花摘みだよ!トイレに行く気まんまんじゃねえか!さっきから黙ってると思ったら、ウンコ我慢してたのか!!・・・そして、ふとマロンがいなくなった静けさに、寂しくなっている自分がいることに気づいた。考えてみたら、こんなに楽しく人と会話したことなんて、なかったかもしれない。人との会話ってこんなに楽しいものなのか。僕には、マロンがトイレに行っている隙に、こっそり帰ってしまうことなんて、できそうになかった。

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