vol.7
「おいマロン」
「もー!!英司くん!マロンじゃなくって、花ちゃんって呼んでってさっき言ったでしょーだぽん!」
「まぁそんなんだけどさぁー・・・さっきのおまえの決めポーズ、印象強すぎたからな・・・。おまえの名前が、僕の脳内に、『マロン』でインプットされちゃったんだよ。別にいいだろ?」
「ぶー・・・いいけどさぁー・・・」
マロンは頬をプクッとふくらまして下を向いてしまった。どうやら、僕に花ちゃんて呼ばれるのを楽しみにしていたようだ。呼び方なんて、どうだっていいと思うけど。・・・いや、そんなことないか。僕だって、本名は英司なのに、みんなからは『銀ちゃん』って呼ばれてるの、あんまり気に入ってないんだった。もしかしたら、こいつも『マロン』って呼ばれるの、あんまり好きじゃないのかな・・・。
「・・・そんなに、『マロン』って呼ばれるの、嫌か?」
「嫌じゃないけどー・・・『マロン』って、フランス語で、『栗』って意味なのだぽん。栗ってさぁー・・・色がさぁー・・・茶色でさぁー・・・ウ・・・ウン」
「それ以上言うな!!」
「ウンコみたいじゃぁんだぽん」
「言うなって言っただろ!!」
そんな理由で嫌なのかよ!だったら、僕は、僕は、意地でも貴様をマロンと呼び倒してやる!
「おい、マロン!次の質問だ!お前、何で僕の名前知ってたんだ?」
「あーーずるーい!英司くんばっか質問して!わたしのターンだよ!」
「お前のターンなんてねーよ!」
ちくしょー!さっきから話が全然進んでねー!これじゃいつまでたっても聞きたいこと、聞けないじゃないか・・・。
「じゃあ、わたしのターンね!さっき、英司くん、『銀ちゃん』って呼ばれてるって言ってたよね?どうしてそう、呼ばれてるの?」
「ん・・・?あぁ、駅のホームでそんなこと言ったっけか」
確か、マロンがホームで僕の名前をいきなり呼んだから、気が動転してキツく怒鳴ってしまったときだ。
「僕の名前って英司だろ?ローマ字であてると、Ag。Agは、銀の元素記号だから、みんなにはそう呼ばれてるんだよ。あ、でも、マロンには僕のこと、今まで通り英司って呼んでほしいな。僕、あんまり銀ちゃんって呼ばれるの、好きじゃないからさ」
「ふぅーん・・・わかっただぽん」
・・・実は、マロンがさっきから僕を英司くんって呼んでることが、僕にはすごく嬉しかったりする。僕自身を認めてもらっているようなのだ。ただ本名を呼んでもらっているだけのことなのに、今までの人生で認めてもらったことがあまりない僕にとっては、冷たくてカチカチに固まっていた胸が、だんだんと温かくなっていっている気がした。
「英司くんって銀歯が多いんだね!歯、磨かないの、かな・・・?汚いだぽーん!!」
「全然違うよ!」
もう、マロンに正常な理解力を求めるのは諦めた。
「それで、いい加減、教えてくれないか?何で、僕の名前、知ってたんだ?」
「うーんと・・・それは、校長先生におしえてもらったのだぽん」
「校長先生・・・?魔法学校の校長先生か?なんでその人、僕のこと知ってるんだ?」
「知らないぽーん。でも、調べたって言ってたよ。わたしはただ、英司くんの写真を見せられて、この子をビビディ・バビディ・ブー学園に連れてきなさいって言われただけだぽん」
すっかり冷えてしまったホットハニーカフェオレを、まだちびちびと飲みながら、そう言うマロン。ふーん・・・。僕を知っていたのは、マロンだけじゃなくて、校長先生とやらもなのか。魔法学校の校長先生ってことは・・・魔女?なのかな・・・。もしかして僕、薄気味悪い魔女に目つけられたのか・・・?うぅ・・・なんだか寒気が・・・。
「そう言えばお前、去年の東大受験でも僕を邪魔したって言ってたよな?よりによってあんなに臭い野郎を僕の隣に座らせて、一体何したかったんだ?今年の受験でも、くしゃみ止まらなくさせたって言ってたし・・・。あれ、かなりきつかったんだぞ?何を企んでるんだ?」
「知ーらなーいぽーん。わたしはただ、校長先生に命令されただけなのこと。校長先生がね、2年ほど前から、様子がおかしいの。毎日毎日、『英司くんさえいれば・・・英司くんさえいれば・・・』ってうなされてるみたいなの。だから、わたしが力になってあげただぽん!」
「その先生怖すぎますけど!」
それに、僕、魔女の知り合いなんていないし!その校長先生って、一体何者なんだ?僕に・・・僕になんの恨みがあるんだ!?呪いとかかけられんじゃないんだろうな・・・!?こ・・・怖いよぉぉぉぉ!!