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vol.5

 そういえば、さっき僕がなぜ駅のホームにいたかというと、岐阜にある僕の実家に帰るつもりだったからだ。先日、5度目の東京大学入学試験で見事なスベりっぷりを見せた僕は、電話で母さんに結果を報告する気になれず、それに、東京大学の受験を諦めようと決心したことも伝えたくて、母さんに直接会いに帰ろうとしていたのだった。僕ができるだけ良い環境で勉強できるように、東京で一人暮らしをさせてくれた母さん。父さんと離婚してお金に余裕がないのに、僕に毎月仕送りしてくれている母さん。母さんのことを思うと、東大にはなんとしてでも受かりたかった。受からない自分がすごく情けなくって、悔しい。本当は、母さんに会わせる顔なんてないのだけれど、きっぱりと受験をやめることを伝えなくては、前に進めないって思う。だから、だから、実家に帰ろうと思っていたのだけれど・・・。


「とんでもない予定変更だな、これは・・・」


 今の自分は、駅のホームにいるのではなく、へんてこ美少女と喫茶店でのんびりしているのだった。


 あれから、駅の改札を出て、僕たちは近くの喫茶店に入った。夕方だからだろうか、会社帰りのサラリーマンや、学生などで混雑していたが、窓側に空いていた席を見つけ、ようやく腰をおろした。


「先、飲み物買ってきなよ」


 僕は、自分でもびっくりするくらい疲れていたらしい。一旦腰をおろしたらしばらく立ちたくなくなってしまったのだ。こいつが飲み物買ってきてから、僕は後で行こう・・・と、考えていたら、


「わたし~、お金ないんだけど~だ、ぽん!」


髪の毛をくるくる指で遊びながら、ギャルのような口調で最低のことを言われた。


「おまえ・・・まじでお金ないの?じゃあどうやって駅の中入ったんだよ!」

「パスモにチャージしてあるもん。あ!もしかして、英司くん、パスモ知らないの?遅れてる~~!!電車も~パスモ~って歌でCMやってるじゃあ~んだぽん」

「パスモくらい知ってるわ!・・・ったく、わかったよ。じゃあ、なに飲むんだ?仕方ないから、僕買ってくるよ」

「えへ☆英司くんは、優しいねっ!」

「その笑顔は作戦なのか!??」


確かに、最初はこいつの笑顔は可愛いって思ったけどさ~。こう何回も笑顔を向けられると、だんだんイライラしてくるよ。


「えっとね~、わたしはアイスハニーカフェオレ」

「だーめ。寒いんだろ?温かいのにしなさい」

「ぶー。全く、英司くんは厳しいんだからっ☆じゃあ、わたしホットのハニーカフェオレにするだぽーん」

「・・・はいはい」


 ・・・母さん。僕は今日、変な女の子に面倒をかけられてしまって、母さんに会えそうにありません・・・。僕は、ふらふらと飲み物を買いに行きながら、遠くにいる母さんに、なんだか無性に会いたくなった。

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