vol.4
考えてみたら、今は3月中旬。それに今日は生憎の雨で、どう考えてもビキニ姿で外に出られる気温ではない。ジャケットのすそをつかんで上目遣いで見つめてくる美少女を見て、僕の着ているジャケット、貸してあげようかと思った。が、よく考えてみれば自業自得なのだ。僕だってジャケットを脱いだらかなり寒い。それに、さっきこいつが話したことが本当だとしたら、僕はすでにこいつにかなりの迷惑をかけられていることになる。よし、ここは意地でもジャケットを貸さないことにしよう。
「なあ、ビキニ姿なのは自業自得だろ?僕は絶対ジャケット貸さないよ。僕だって寒いんだからね。さ、早くホームから出てゆっくり話を聞かせてもらうよ。」
こいつが泣いたって知るもんか。泣きたいのはこっちのほうなのだ。すると彼女は、僕のジャケットから素直に手を離した。なんだ、けっこう聞き分けいいんじゃん・・・と、思ったときだった。
「英司くん・・・わたし、寒いぽん・・・。このままじゃお腹冷えちゃうかもよ?そしたら、そ、そしたら、わたし、お腹が痛くなっちゃって、そしたら、赤ちゃん産めないお腹になっちゃうかもなの・・・。そしたら、英司くんは、どう責任とってくれるの、かな・・・?それとも、英司くんは、わたしを、赤ちゃん産めない体にしたいの、かな・・・?」
「わかった、わかったから!誤解を招くことは言わないでくれ!!」
こいつ・・・。かなり嫌な奴だった。僕は黙ってジャケットを脱ぎ、黙って彼女に渡すと、黙って歩き始めた。さ、寒い・・・。
「ねぇねぇ、英司くん」
「・・・今度はなに」
また呼び止められて、僕はげんなりしながら振り向く。ああ・・・一体、どうして僕はこんな目にあっているのだ・・・。
「えへ☆英司くんは、優しいねっ!」
「・・・っ!」
そ、そんなまぶしい笑顔をこっちに向けるなよ!なんでも許しちゃいそうになるだろ!
「は、早くいくぞ!僕が聞きたいことは全部教えてもらうからな!」
「えへへ!はあ~い☆」
僕のジャケットは、彼女にはかなり大きいらしい。動きにくそうにしながらも、ちょこちょこ走り寄ってきて、いきなり僕の手をとる彼女。僕は顔を真っ赤にしながら、少しだけ、少しだけ、今まで経験したことのない非現実的な状況を楽しんでいた。・・・今考えると、ここでこいつを無視していれば良かったのかも知れない。でも・・・当時の僕は、そんなこと、できなかったんだろうな・・・。