vol.3
確かに僕の名前は英司で間違いなかった。ローマ字であてると、Agとなることから、小さい頃からまわりからは「銀ちゃん」って呼ばれている。Agは、銀の元素記号だからだ。僕はその呼ばれ方があまり好きではない。なんだか遠回しに、おまえは金には勝てない、負け犬だって言われているような気がするからだ。もしかして、この呼び方のせいで、いつまでたっても東大に受からないのかな・・・って、そんなこと考えてる場合じゃない!!
「なんで僕の名前知ってんだよ!?僕たち、今ここで出会ったばかりだろ?おかしいじゃないか!君に名前なんて教えた覚えないよ!?銀ちゃんじゃなくって、英司くんって呼んでるってことは、僕の知り合いではないって証拠なんだよ!?おまえ、何者だ!?やっぱり、僕をホームに突き落としたのはわざとなのか!?それに、まさかおまえ、僕をつけてきたのか!?何を企んでいる!そんな変な格好して、頭おかしいんじゃないのか!!??」
言った瞬間、言い過ぎたかも、って思った。何歳なのかは知らないが、明らかに僕より年下の女の子に、頭おかしいと言うのはさすがに可哀想な気がする。そして、・・・ああ、やっぱり言い過ぎたようだ。彼女の目にみるみるうちに透明な涙があふれ、今にもこぼれ落ちそうになっていた。
「ご・・・ごめんなさぁぁいだぽん・・・!!怒られるのことやだ!!!!だって、だって、わたしだけが悪いんじゃないもん!わたしだけ怒られるのことやだよ!確かに、わたしは、えっと、えっと、・・っえ、英司くんに色々したぽん・・・・大学の試験のときに隣に臭い人座らせたのもわたしだよ・・・くしゃみ止まらなくしたのも、わ、わたし・・・・。だけど、でも、わたしが考えたんじゃないもん!校長先生が、考えたんだもん!!わたし、言うこと、聞いただけだもん!・・・怒られるのこと、やだ・・・」
・・・。は、はあ・・・!??何ですって!??更なる衝撃の事実が告げられた。この話が本当なら、僕はもう、この世の何も信じられないよ??ぼ、僕の試験の邪魔をした?・・・って言ったよな?なぜ!??
「・・・っ」
・・・だめだ、こいつとはまず、えっと、いったん落ち着いて話したい。そうじゃなくって、えっと、僕自身がいったん落ち着きたい。とにかく、駅のホームでの立ち話なんかで済むようなレベルの話ではない。とにかく、ここを出て、喫茶店かどこかで話をしよう。
「ご、ごめんな?さっきは少し言い過ぎたよ。あの、色々聞きたいことあるから、いったん駅から出よう。話、聞かせてくれるよな?」
「・・・うっ・・・うん」
涙をこらえながらうなずく彼女。はあ、今日はどうやら僕が歩んできたつまらない人生の中で、最高にびっくりな一日になりそうだ。
「え・・・英司くん・・・」
「ん?どうした?」
見ると、彼女は、僕のジャケットのすそをちょこんとつまんで、もじもじしていた。ちょっと、可愛い。なんだか彼女、みたいだ。彼女、いたことないけど。
「英司くん・・・えっと・・・寒いの」
「ビキニだからだよ!」