vol.22
次の日の朝、僕は何者かにものすごい勢いで殴られて、目が覚めた。
「・・・いってえ・・・」
目覚めてすぐ、見慣れない景色に一瞬頭が混乱したが、すぐにここはビビディ・バビディ・ブー学園だったと思い出す。それにしても、誰が僕を殴った?
殴られてずきずき痛む腰をさすりながら体を起こすと、隣に寝ていたピエールのすね毛だらけの足が、僕の腰を直撃してるのが目に入る。
「・・・ピエールの野郎・・・」
ピエールはまだ熟睡中。時計を見ると、明け方の4時だった。昨日のレインボー先生の話が終わったのが夜中の2時だったから、僕はまだ2時間ほどしか寝てないようだ。
しかし、ピエールの足に起こされてから全く寝付けなくなった僕は、ピエールのおでこに「この世で1番の変態はこの俺様!」と、マジックで落書きをしてから、布団を出た。
明け方の秋葉原の街の中なんて、初めて歩いた。爽やかな朝の風が心地よい。うーん、と背伸びをして少し散歩すると、酔っぱらいで千鳥足のサラリーマンや、パンク系の服装に身を包んだ若者の集団、こんなに朝早くから何かのイベントの準備だろうか、可愛らしいメイドさんが目に入った。
「僕は今まで、東大受験の為の勉強しかしてこなかったから、こんな風景とも縁がなかったんだな。ちょっと感動かも」
・・・東大受験生としての自分を捨て、新しい人生を歩むと決めた。この5年間は浪人生として過ごしたのだから、就職としてはかなり不利な状況だろう。それでも、さっきレインボー先生に指摘された通り、自分でこの人生を選択してきたと明らかになった今、これ以上無意味な受験生を続けるのは、お母さんに申し訳ない。僕は、ここで一歩踏み出さなければならない。そう実感した。
「英司くん?もう起きられたんですか?お早いんですね。おはようございます」
ふいに凜とした声をかけられ、思わずびっくりして振り返る。そこにドレイちゃんが立っていた。
「おはようございます。ドレイちゃんも早いんだね。何してるの?掃除?」
ドレイちゃんは箒で学園の前の道路を掃除していた。朝から清楚なたたずまい。本当癒される。早起きしてよかったかも。・・・ピエールに感謝かな。
すると、ドレイちゃんは僕のほうにそそっと近寄ってきて、一枚の紙を渡した。
「英司くん。昨日のレインボー先生のお話、覚えていらっしゃいますか?立川のほうにあるジーニー魔法大学院のこと。ジーニー長老が、勝手気ままに生徒を奴隷扱いしてるってこと。実は、私の幼なじみが5年前にその魔法大学院に入学したんです。でも、入学してからは一切連絡が取れなくて・・・。その子のお母さんも、どうやらその子と連絡が取れないらしいのです。
レインボー先生が、『日本の魔法学校の生徒が激減している』って言っていたでしょう?あれ、実はジーニー魔法大学院だけは、違うそうなのです。ジーニー魔法大学院は、超秘密主義で情報が一切漏れません。だから、生徒の親たちも、政府からの手紙を信用せず、むしろ魔法大学院のほうを信用していて。どの親も、生徒を連れ戻そうとはしないそうなんですよ。
この手紙は、その幼なじみのお母さんが私宛に送ってきた手紙です。『娘がどんなに立派な魔女になって帰ってくるか、ずっと楽しみにしている』って。でも私、この幼なじみが、ジーニー長老に変な扱いを受けているんじゃないかって、不安で不安で・・・」