vol.16
「あーー!!英司くん発見だぽん!校長先生に連れて行かれちゃったから、もう一生会えないかと思ったぽーん!!会いたかったよぉぉー英司くーん!」
向こうからマロンが手を振りながらやってきた。
ポテチを片手に。バリバリ食べながら。
・・・本当に、会いたかったのか?
「英司くん・・・?あなたが、校長のおっしゃっていた、英司くんですかだにゃん?」
「あ・・・は、はい。ってか・・・大丈夫ですか?足首、痛みますか?」
僕は、できるだけ自分の紳士に見せようと、手を差し出した。こんな美女に手を差し出すことができるなんて・・・今までは、さんざんな人生だったけど(まぁ、それもレインボー先生に言わせれば、僕が自分で選択した人生だったってことだ。僕は結構なマゾなのかも知れなかった)、これからは自分で自分の人生を良いほうにコントロールしていくのもいいかもしれない。・・・こんなふうに。美女と手をつないだり。キ・・・キス、したり。あんなことや、こんなことしたり・・・
「英司くん?大丈夫だぽん?鼻から大量の赤い液体がはみ出しているよ?」
「・・・はっ!」
妄想しながら鼻血を出すなんて一生の不覚だった。
マロンは、側で倒れているメイド服の美女に駆け寄り、
「あーー!!ドレイちゃん!大丈夫?も、もしかして、英司くんに何か変なこと、された!?可哀想だぽーん!!!」
「僕は何もしてないよ!ただぶつかっちゃっただけ!・・・ったく、この学園の連中は、もうちょっと登場シーンに個性出したりできないのか?みんな同じように僕にぶつかってきやがって・・・」
「ご・・・ごめんなさいだにゃん・・・」
「あ・・!!い、いえいえ、あなたのことを責めているんじゃないのです!!それより、大丈夫ですか?」
「はい、もう立てますだ、にゃん」
足首を痛そうにしながらも、なんとか立ち上がったメイド、名前は、確か、さっきマロンが言ってた・・・
「ド、ドレイちゃんっていくらなんでも可哀想なあだ名だろ!」
まったく、マロンは、こんな美女を捕まえて何てあだ名をつけてやがる!許さねぇ!
すると、メイド服の美女(僕はドレイちゃんなんて可哀想なあだ名では決して呼ばない)は、照れくさそうな表情をした。
「わ、私の名前は、ドレイちゃん。英司くん、初めましてだ、にゃん。この学園のメイドです、にゃん。なんでも、申しつけてくださいね、だ、にゃん!」
「・・・は、はい・・・」
可愛い。可愛すぎる。どうやら、えっと・・・ド、ドレイちゃんって呼んだ方がよさそう、だな・・・。マロンが勝手に呼んでいるいじめのようなあだ名じゃなくって、本当の名前だってことか?今日始めてこの学園に来てから、結構いろいろな奇想天外な出来事に遭遇しているから、それぼどの驚きはないけれど、でも・・・ドレイちゃんは、驚くほどの可愛さだった。それに、語尾に『にゃん』とつけるところが、最高に可愛さを引き立たせている。最初会ったときは、可愛いよいうよりは、美人系かなと思ったけれど、そうじゃない。この子は、可愛い。
「・・・『にゃん』って、いいですね・・・」
僕がそうつぶやくと、ドレイちゃんは急にもじもじし始めた。恥ずかしいの、かな?
「こ、これは!!本当は、恥ずかしいの、だにゃん・・・本当は、『にゃん』なんて言ってるの、すごく恥ずかしいの、だにゃん・・・や、やめたい、にゃん・・・」
「ちょ、ちょっと!!ごめん、変なこと聞いちゃって!」
いきなりドレイちゃんが泣き始めてしまった。僕が右往左往していると、マロンがポテチを相変わらずバリバリしながら、
「あーーあ。英司くんがドレイちゃんを泣かしたぽーーーん。ひどい男だぽん」
・・・マロン。お前に初めて会ったときに、少しでも可愛いと思った僕の心は、きっと病気なんだね。
「ひっく・・・だ、大丈夫だ、にゃん。これくらいのことで泣いていたら、メイドとして、しっかりできない、にゃん・・・」
ドレイちゃんが必死に泣きやもうとしている。それにしても・・・マロンの『ぽん』は、口癖だろし、レインボー先生の『ちょいちょいちょい』は、まぁ、事故みたいなもんだし(あの登場シーンと、校長室のレインボー先生は、きっと別人じゃないかと思う)・・・。ドレイちゃんの『にゃん』は、一体なんなんだ?自分でやめたくても、やめられない、口癖なのか?呪文をかけられている、とか。本当は、ドレイちゃんは猫だ、とか。魔法学校なら、非現実的なことが起こっても不思議じゃない、わけだし。
「なぁ、ドレイちゃん。そんなに泣くほど辛いなら、その口癖、やめちゃうことはできないのか?何か、やめられないわけでも、あるのか?」
・・・泣いてしゃっくりをしながら、黙ってしまうドレイちゃん。そんなに深刻な問題が、あるというのか?それなら、力になりたいって思った。こんなにか弱い美女にどんな試練がふりかかっているのだろう。僕は、少しでも、力になりたい。ドレイちゃんの笑顔を、取り戻したい。
僕は、ドレイちゃんのほうをちらりと見た。ドレイちゃんは、マロンのほうをちらちらを見て、なんだかおびえている・・・ようだった。マロンはというと、
最高級のにやにやを浮かべながら、ドレイちゃんに何かの写真を見せていた。
まるで、その写真が人質にとられているように。どうやら、その写真が、ドレイちゃんをおびえさせている正体のようだった。
マロンは、僕がその写真をじっと見ていることに気づくと、さっと背中に隠した。
「じゃ、じゃあ、わたしはもう教室に戻るぽーん・・・」
「ちょっと待て」
マロンの肩をがっちりと掴み、放さない僕。
「その、写真は、なんだ?ドレイちゃんがそれを見て怖がっているのは、なぜだ?」
「な、なんのことかなーだぽん!し、知らないぽーん・・・」
「しらばっくれんな!!今、何かの写真をドレイちゃんに見せて、にやにやしてたじゃねぇか!見せてみろ!」
「あっ・・・ちょっと、返してだぽーん!!!」
マロンから強引に写真をとりあげ、見てみると、
そこには、ドレイちゃんが涙を浮かべながら、猫の耳をつけて、招き猫のポーズをしているのが写っていた。
「な、なんだ、これ・・・」
可愛いを通り越して、時限爆弾ですけど!!!マロンは、僕が驚愕の表情をしたのを見て、急に嬉しそうな顔になった。
「ぽんぽん!!英司くんも、この写真、可愛いと思うでしょーーー!!これ、私がドレイちゃんに強制的にとらせた写真なのだぽん!ドレイちゃんは、この学園のドレイだから、なんでも言うこと聞くんだぽーん!だから、この写真をとって、この写真をネット上で流されたくなかったら、語尾に『にゃん』をつけろーって命令したんだぽーん!!」
「お前が悪の根源かよ!!」
マロンは、魔女じゃなくって、悪の女王だった。
「この写真は、ドレイちゃんに渡すこと!それに、『にゃん』をいうのも、やめさせてあげなさい!!!」
「はーいだぽーん・・・」
しぶしぶ写真をドレイちゃんに返すマロン。心底ほっとした表情のドレイちゃん。僕も、確かに『にゃん』は捨てがたかったけどさぁー・・・