vol.15
幼稚園の頃、僕は絵がとても上手だと、先生に褒められた。母さんはとても喜んで、市のコンクールに応募した。しかし、展覧会当日、僕の絵はふとした拍子に破れてしまった。僕の絵が一番上手だったのに、何一つ賞が取れなかった。母さんは、すごく悲しんだ。
小学生の頃、僕は英会話の塾で、英語でのスピーチの代表に選ばれた。母さんはとても喜んで、スピーチ当日のために僕に英語を猛特訓させた。しかし、スピーチ当日、僕は40度の熱が出て、結局辞退することになってしまった。僕が一番上手なスピーチだったのに、舞台に上がれなかった。母さんは、ものすごく悲しんだ。
中学生の頃、僕は学校中で一番成績が優秀だった。母さんはとても喜んで、僕を難関高校に受験させた。しかし、受験当日、僕は盲腸になって、結局試験を受けられなかった。僕は学校中の期待を背負っていたのに、その高校にはついに合格できなかった。母さんは僕を怒り、泣いてしまった。
高校生の頃、僕は東大受験の資格が得られるほどセンター試験で良い点をとった。母さんは本当に喜んで、僕になんとしてでも東大に受かるよう、何度もお願いした。しかし、本番当日、僕は名前を答案用紙に書き忘れてしまった。僕は東大に落第し、浪人することになった。母さんは涙をたくさんこぼしながら、東大に合格するまで母さんが頑張って仕送りをするから、東京の予備校に通いなさい、頑張って、絶対にあきらめてはいけませせんよと、僕を一人暮らしさせた。
いつもそうだった。いつも、僕の努力が成果として実るとき、なにか不幸なことが起こった。まるで僕が母さんを悲しませたいかのように。母さんに期待をさせて、いつもお約束のように期待を裏切ってきた。僕は、これが、僕が不幸体質だからだと思っていた。僕が、ダメだからだと。母さんの期待にそえないダメな息子だからだと。
でも、あるときから、僕は少しずつ気づき始めた。僕への期待が裏切られた母さんが悲しい顔をしているのを見ると、ホッとする自分がいることに。母さんが、もう僕に期待するのをやめて、自由にさせてくれるんじゃないかって。そうか・・・僕は思った。僕は、母さんが僕に期待するのが嫌なんだ。みんなが遊んでいるように、僕も遊びたかったんだ。みんなが好きな高校に行きたいように、僕も高校を選ぶ権利が欲しかったんだ。みんなが青春しているときに、僕も青春したかったんだ。
僕は、自分の能力にも少しずつ気がついていた。なんでも、僕が思ったとおりの結果になることに、気がついていた。東大受験のとき、これで僕が東大に受かったら、母さんの引いた線路の上をこのまま走っていくばかりなのかと無意識に嘆いた。すると、確実に合格点をとったはずなのに、結果は不合格だった。僕は決してわざと手を抜いて東大不合格になったわけではなかった。僕は、母さんに喜んでもらいたいのだから。でも・・・でも、心の奥底では、母さんにもう期待されたくない、母さんの呪縛から抜け出したいという思いでいっぱいだったの、だろう。自分でも気がつかなかったけれど。僕は、自分の本心で望んだことが現実になるという能力を持っているのかもしれない、と、気づいたのだった。
・・・レインボー先生に瞬間移動で校長室に連れていかれてから2時間後。僕は、ここ、ビビディ・バビディ・ブー学園の廊下を一人とぼとぼと歩いていた。時刻は、午後8時半を過ぎていた。今から岐阜に行く気もなれず、今日は仕方なく一人暮らしのアパートに戻ろうと思っているところだ。それに・・・色々、考えることもできちまったし・・・。
「・・・僕って、自分に関しちゃ相当の無知かもしれないな・・・」
レインボー先生に言われた数々の言葉を思い出す。先生は、僕に特殊な能力があると言った。断言、した。そして、それは、真実、だった。僕は今まで、そのことに気がつきながらも、見ないふりをしていたのだ、ろう。レインボー先生に指摘されて、初めてそのことに真っ正面から向かい合った。・・・少し、気持ちがすっきりしている。きっと、自分の心に今まで目を背けていたから。レインボー先生に真実を告げられたとき、自分を認められた気がして、少し、嬉しかった。
「・・・レインボー先生、か」
先生は、校長室で、僕に学園を助けて欲しいと言った。まだ、どうやって助けるのか、そもそも学園がどんな危険にさらされているのか教えられていないが・・・。どうやら、僕のこの能力が役に立つらしい。僕自身、まだ自分の能力に対してほとんどよくわかってないから、何を具体的にすりゃいいのか、わかんないけど。・・・入学して、生徒数増やすだけじゃ、何も解決しないだろうし。
「・・・とにかく、今日のところは、帰るか」
そう思って、ようやく広大な学園内から外へと続く玄関を見つけたとき、
どん!!!
と、なにかにぶつかって、僕は盛大にずっこけた。マロンに線路に落とされ、レインボー先生とぶつかったときに派手にぶつけた腰に3度目の激痛が走る。
「いててて・・・今日はよくぶつかるな・・・・今度は何だよ・・・」
腰をさすりながら、マロンに今度こそ一瞬で痛いところを治す呪文をかけてもらおうとし(ようやく僕も、呪文や魔法などという非現実的なものを信じてみようかな、という気持ちになったのだ)、立ち上がると、
そこには、メイド服を着た美女が立っていた。
「・・・」
・・・僕は、僕は、こんなに美女、今までお目にかかったことがございませんよ!?マロン確かに性格の割には美人だし、レインボー先生は幼い体ながらに発育が良くって可愛かったけれど・・・
「・・・これは、桁違いの美人さだ・・・」
僕は、おもわず声に出してそうつぶやいた。美女は僕とぶつかった拍子に足をくじいてしまったのか、足首をさすりながら、
「ぶつかってしまって・・・ご、ごめんなさいにゃん・・・」
と、上目づかいで僕を秒殺しようと!!僕は、もう、この子になら殺されても良いかもしれません!・・・でも、この子、誰!?ピエール・・・じゃないだろうし・・・