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vol.13

ビビディ・バビディ・ブー学園。『ビビディ・バビディ・ブー』という不思議な言葉を聞いたことがある人は多いだろう。『シンデレラ』に登場する魔女が、みすぼらしい格好をしたシンデレラに綺麗なドレスを用意し、カボチャを馬車に変身させたときに使う呪文の言葉だ。日本には珍しいだろうが、外国には数多くの魔法学校があるらしく、『シンデレラ』に登場する魔女や、『ハリー・ポッター』に登場する先生達に憧れて入学してくる生徒も多いらしい。そして、ここ、ビビディ・バビディ・ブー学園は、日本にある魔法学校の中でも、上位クラスの授業の質、先生の能力の高さ、そして、生徒のやる気を兼ね備えた素晴らしい学園なのだ・・・そうだ。


 廊下から一瞬のうちに校長室へと連れてこられた僕は、レインボー先生に言われるがままにふかふかのソファーに座り、温かい紅茶(きっととても高級な紅茶だ)を飲みながら、この学園の歴史や、素晴らしさをレインボー先生から聞かされていた。・・・どうしてこう、学校の校長先生って話が長いのだろう。かれこれ1時間以上は話を聞いている気がする。


「・・・我が学園は、こういうわけで、10年前、全国呪文暗記大会で、堂々の優勝を果たしましたの。これも、我が学園の誇りの1つですわ」

「は、はあ・・・」


・・・どう見てもまだ第2次成長期前だろ!とつっこみたくなるような体型のレインボー先生は、上品な言葉遣いで淡々と学園自慢を連ねていく。


「・・・ところで、レインボー先生。僕を呼んだ理由を、そろそろ聞かせて欲しいのですが」

「・・・あぁ、そうでしたね。やっぱり、教えないと、英司くんはこの学園に入学してくれませんよね・・・」

「・・・は?」

「このように、この学園の良いところを教えても、まだ入学する気持ちは芽生えませんか?」

「芽生えません」


・・・ってか、この先生、もしかしてこの1時間、ずっと僕を入学するように勧誘してたのか!?僕、気づかなかったけど!自慢、されてるだけかと思ってたよ!勧誘するなら、もっとわかりやすく勧誘してほしかった。


「では、教えますが・・・この学園、今、何人くらいの生徒がいると思いますか?」

「え?・・・えっと・・・100人くらい・・・ですか?ここ、かなり広いビルだし、教室もたくさんありそうですしね。今日は、もう夜だからあまり人がいないようですが、昼ならそのくらいの人数はいるような気がしますけど」

「・・・そうですか・・・」


なにか、すごく言いにくそうなレインボー先生。生徒の数って、僕を呼んだ理由に関係あるのか?


「そ・・・それで?」

「えっと・・・英司くん。正直申し上げて、我が学園に、今、生徒は3人しかいません。マロンと、先ほど廊下でマロンと話していたヒカリと、もう一人、ピエールという男子生徒だけです。100年ほど前、私がこの学園を創設した頃は、確かに100人ほどの生徒がいました。でも、ここ2、3年で、この学園を退学する生徒が続出し、生徒は今やたったの3人ほどになりました。このままでは、この由緒ある素晴らしい魔法学校に生徒が一人もいないという最悪の事態が待ち受けています!お願いです!この学園を、この学園を、助けてください!!」


ソファーから飛び降り、僕の前で何の抵抗もなく土下座するレインボー先生。その背中は、とても辛そうで、深刻な悩みを抱えているように見えた。しかし・・・しかし、僕は・・・僕は、これでも東大5浪したという過去がある。非現実的なことは、さっきの瞬間移動を経験した後であっても、ほとんど信じちゃいなかった。それに・・・さっきのレインボー先生の話、深刻そうで全くの意味不明だ。僕は、そのシリアスな場面で、色々つっこみそうになったほどだ。


つっこみその1。

「先生・・・100年前にこの学校創設したって・・・あなた、100年以上生きてるってことになりますが・・・」


つっこみその2。

「3人しかいないって、なんでですか?どうしてそんなに退学が続出したんですか・・・?なにか、事件とか?」


つっこみその3。

「ピエールって、フランス人すか!?」


つっこみその4。

「助けるって、どうすりゃいいんすか?僕一人入ったって、人数あまり変わらないですよ?それに、そんな理由なら、別に僕じゃなくっても良いじゃないですか?なんで、東大受験の邪魔をしてまで、僕にこだわるんですか?僕は、・・・僕は、東大に入りたかったのに。母さんを喜ばせたかったのに!なんで、そんなくだらない理由で、邪魔するんですか!!僕を、ほっといてください!他にも代わりはいくらでもいるでしょう!?」


・・・つっこみじゃなくて、僕の本音が出てしまった・・・。自分でも気づかなかったが、マロンについてこの学園に来た僕の本当の理由は、きっと大学受験を邪魔したことを責めたかったから、なのだろう。自分でも、気づかなかったが、僕は、そのことを、かなり、苛立っていたのだろう。レインボー先生。僕は、あなたのせいで、母さんを喜ばすことができませんでした。あなたが東大受験のとき、僕の席の隣にめちゃくちゃ臭い奴を座らせなかったら!!僕にくしゃみが止まらないような呪文をかけなかったら!僕は、母さんを喜ばすことができたのに!


「・・・ご、ごめんなさい、英司くん。私はあなたにたくさんの迷惑をかけたわ。でも、でも、この学園を救えるのは、あなたしかいないの!マロンと、ヒカリと、ピエールと、あなたで、この学園を救って欲しいの!」


土下座したまま、必死な目をして僕に嘆願するレインボー先生。・・・どうして、僕なんだ・・・・?僕にしかできないことが、あるとでもいうのか・・・?

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