vol.11
水色のワンピースを着た小学校低学年くらいの女の子の登場で、マロンのせいでさっきまででも十分にクラッシュ寸前だった僕の脳内は、完全にクラッシュした。思考停止状態。僕は本番に弱いタイプなので、大学のセンター試験で何度かこの状態に陥ったことがある。大事な試験中に、今まで寝る間も惜しんで勉強してきたことが、スカッと頭の中から消えてしまうのだ。「頭が真っ白に」なんて言葉をよく使うが、僕の場合は違う。「頭が真っ青に」だ。思考停止状態になると、焦ってしまって、顔はもちろん、頭の中まで血の気がさーっと引いていく気がするのだ。
「ちょいちょいちょい!英司くん!?大丈夫?固まってるよ!?」
「え・・・あー・・・うー・・・う、ん」
「ど、どうしよう!英司くんが壊れた!ちょいちょいちょい!マローン!助けてー!」
「あーーー英司くん、やっと見つけただぽん!探したんだからー!」
「うー・・・あ、あれ?マロ・・・ン?お、お前、どこ行ってた!?僕を置いて行くんじゃないよ!おかげで、また新たに変な女の子が登場して・・・」
僕は、水色のワンピースを着た女の子を肩から降ろし(正確には、僕から引き剥がしたというべきだ。この女の子は、僕の髪の毛をつかんで、降りようとはしなかったのだ。おかげで、僕の大事な髪の毛が数本、いや、数十本抜けた。髪の毛がどんなに男にとって大事なのかをまだ知らないのだろう)、この子の肩をつかんで、マロンに渡した。その幼い女の子は、マロンを見て、にこにこしている。そして、おもむろにマロンの方に歩いていくと、精一杯背伸びしながら、マロンの頭をなでて、こう言った。
「ちょいちょいちょい!マロン、よくぞ英司くんを我が学園へ連れてきてくれた!よしよし、いい子だいい子だ!マロンは、来年度は2年生に進級決定だ!」
「わぁぁぁい!やっと2年生だぽーん!ありがとう、校長先生!」
「・・・こ、校長先生!!???」
こ・・・校長先生って、この、水色のワンピースをきた女の子がか!?
「あ、英司くん、紹介するね。こちらは、この学園の校長先生の、レインボー先生だぽん!すっごくすっごく凄い先生で、わたしの憧れなんだー」
「ちょいちょいちょい!よろしくね!英司くん!」
「はぁ・・・・よ、よろしく・・・って、あんたが校長先生なのか!ぼ、僕に会いたがってたっていうのは、あんたなのか!?僕に、何の用だ!何を企んでいるんだ!」
ち、ちくしょーー!外見にすっかり騙されていたけど、こいつが僕を変なことに巻き込もうとしている張本人なんじゃないか!うかつにも肩車までさせちゃったよ!・・・でも、なんで子供が、校長先生なんてやってるんだ?もしかして、すごく頭が良いから、飛び級して先生になったっていう、漫画にありそうな理由なのか?それとも・・・んー、どうしてだ?
「あの、レ、レインボー先生、色々聞きたいことがあるのですが・・・そもそもどうして、子供のようなあなたが、校長先生を?」
「その前にわたしが質問したいだぽーん」
「お前は入ってくるな!」
マイペースのマロンが、僕の質問の邪魔をしてくる。マロンのバカ!あとで、お仕置きだからな!
「はい、マロンさん、質問をどうぞ!ちょいちょいちょい!」
「なんでマロン優先なんすか!」
・・・子供なのに、先生だって聞いてから、敬語を使ってしまう僕って、結構しっかりした人間かもな・・・。
「レインボー先生、なんで時々言葉の端々に『ちょいちょいちょい』って言うんですかだぽん?」
・・・え?そう言うのって、聞いて良いのか!?だって、だって、口癖なんじゃないのか?それって、マロンが『ぽん』って言ってるのと同じなんだろ?コロスケが『ナリ』って言うのと、ナルトが『だってばよ』って言うのと同じだろ?そこってつっこんで聞いて良いところなのか!?
「それはですね、先生も口癖が欲しいからです」
「え!?本当の口癖じゃなかったんすか!?」
「えぇ。私も、マロンのような口癖が欲しかったのです。なので、お笑い番組を見て色々パクらせていただいたんです。色々試してみたんだけど、どれも、不人気で・・・。ねぇ、英司くん。私的には、この『ちょいちょいちょい』が気に入ってるんですけど、どう思いますか?」
「ハムに聞けよ!」
『ちょいちょいちょい』なんて口癖、ちょっと恥ずかしいと思いますけどね・・・。僕はそう思いながら、ゆっくりとその場にしゃがみ込む。はぁー・・・やっぱり、この学園は変な奴ばっかりだ・・・。