vol.10
JR秋葉原駅徒歩5分。いかにもバンドをしてそうなギターを持ったお洒落な若者(考えてみたら、僕もまだ十分若者の部類に入る歳なのだった。長いこと浪人生活をしていたから、自分が若いって忘れていたし、バンドやお洒落などというものは、僕とは全く縁がないものだと思っていた)が集うスタジオの陰に、古くて今にも倒れそうなビルがあり、マロンはためらわずそこに入っていった。ここが、マロンのいうビビディ・バビディ・ブー学園なのか・・・?なんだか、すごく古いビルなんだな・・・。それに、見た目だけでは、ここが魔法学校であるとは想像もつかない感じだった。
「英司くぅん!ここだぽん!ここ、ここがわたしの通っている、ビビディ・バビディ・ブー学園なのだぽん!すごいでしょー!」
「・・・ああ・・・まあ・・・」
今のところ、なにもすごくないのだが。それに、僕は今日マロンと会ってから、まだ、魔法といえるようなものを目にしたことは一度もなかった。この学園も、魔法道具らしいものもなけりゃ、魔法使い、魔女らしい人もいない。むしろ、人っ子ひとりいない、がらんとしたただのビルなのだ。ここで本当に授業なんて開かれているのか・・・?
「英司くん、早く、早くーーー!友達を紹介するから、教室に行こうよだぽーーん!」
「えっ!ちょ、ちょっと待てよ!僕は校長先生に会ったらすぐ帰るって言っただろ!?」
スキップしながらうきうきな感じで僕のずいぶん前を行くマロンは、僕が声をかける前に、どうやら友達を見つけたようだ。「あーーーヒカリちゃーーん!ただいまだぽん!今、英司くんを連れてきたのこと!紹介するね!」と言う声が聞こえてきた。ヒカリと呼ばれた女の子が、「英司くんって、あの校長が言ってた英司くん!?マロン、連れて来れたんだーー偉いやん☆いいこだねぇ」とマロンの頭をよしよしと撫でているのが見える。そして、僕を置いてさっさとどこかに走っていってしまった。・・・って、おい!僕を紹介するんじゃなかったのかよ!?ってか、僕、ここ来たの初めてなんだぞ!?置いていくなよ!マローーン!
「・・・ったく、あいつ、どこ行きやがった・・・?」
完全に見失ってしまった。このビル、ぼろいクセに無駄に広くて、教室もたくさんあるのだ。しかし、本当に誰もいない。学園というからには、誰かに会ってもよさそうなものだが。・・・と、そのとき、
どん!!
と、何かに激突してしまい、床に倒れてしまった。そして、倒れた僕の上に、大量のプリントが降りかかる。
「いたたた・・・・なんだよ、一体・・・」
さっきマロンに線路に突き落とされたときに強く打った腰を、またしても強く打ってしまった。あれ?マロン、一瞬で痛いところ治す方法を知ってるとか言ってなかったっけか?結局治してもらってねぇし・・・全くマロンの奴・・・と、あとでマロンに対してのお仕置きを考えていると、
「いったーい・・・痛いよぉー・・・」
と、涙声が聞こえてきた。僕が、・・・ん?誰だ?と、声のしたほうに目を向けると、そこには、
水色のワンピースをきた6歳くらいの女の子が、倒れていた。
もしかして、僕、さっきこの子にぶつかったのか?
「ご、ごめんな?ぶつかちゃったんだよな。大丈夫か?怪我はないか?プリントもばらまいちゃってごめんな?立てるか?」
散乱したプリントを拾い集めながら、僕はその女の子に向かって謝る。女の子はゆっくりと立ち上がって、「大丈夫」と言った。良かった、怪我はないみたいだ。
「君、ここの生徒なのか?僕、マロンっていう子とはぐれちゃったんだ。君、居場所わかる?もしよかったら、教えてくれないか?」
この子がマロンの居場所を知っていたら、そこまで連れて行ってもらって、あいつと合流する。そして、校長先生に会って、そうしたら僕はさっさとここから立ち去ろう。女の子は、僕と一緒にプリントを集めながら、少し恥ずかしそうに、つぶやいた。
「マロンなら、自分の教室にいると思うんだけど・・・あなた、誰?」
「僕?僕は、英司っていうんだ。校長先生に呼ばれて来たんだけど・・・」
そう言った瞬間、なんと、女の子がいきなり僕のシャツにつかみかかってきた。そして、僕の肩によじ登り、肩車の状態になってから、こう叫びだした。
「ちょいちょいちょい!!英司くん!捕まえた!私、やっと、やっと英司くんに会えたのね!!ちょいちょいちょい!これで、これで私はもう大丈夫!この学園ももう大丈夫なのね!ちょいちょいちょい!」
「・・・は?」