vol.1
この生活からいい加減抜け出したいのだが、生憎東京大学の入学受験日は一年に一度しか用意されていないのが現実だ。そして、僕は先日、人生で五度目のその日を迎えていた。
「はあ・・・今年もダメだったか・・・」
東京大学受験浪人生活丸五年。23歳になった僕は、結局なんの成果も出せないまま、長すぎた浪人生活に幕を閉じることを決意していた。自分の中ではもちろん納得していない。予備校の模試で東京大学合格可能性がA判定だったこともあるし、三度目の受験では、合格者の補欠に選ばれたこともある。しかし、あと一歩、あと一歩が足りないのだ。それにともなって、受験日にはいつも何かしら不幸が重なっているような気がする。例えば、去年の受験日には、席の隣の人が異常に臭くてテストに集中できなかったり(実はそいつは東京大学合格の縁起を稼ぐために、三ヶ月風呂に入っていなかったそうだ。そしてそいつは去年めでたく合格した。決して風呂に入らなかったからではないだろう。そう信じたい)、今年は、なんと受験日の三日前からくしゃみが止まらないという事態に陥ってしまった。僕はきっと何かに合格の邪魔をされているのだろう。そうとしか思えない。というか、そう思いたい。
「母さんに今年も落ちたこと言ったら、また泣かれるんだろうな・・・」
もとはと言えば、母さんが異常な見栄っ張りだからなのだ。一人息子を必ず東京大学に入れたいというのが僕が小さい頃からの夢であり、目標なのだ。そのため、僕は小さい頃からありとあらゆる習い事をさせられた。学習塾はもちろん、英会話、スイミングスクール、習字、ピアノ、バイオリン・・・。今思い返すと、僕の幼少時代の思い出に、友達と無邪気に遊ぶというものは皆無である。全く、我ながら本当につまらない人生を送ってきてしまった。
「はあ・・・いっそこのままホームから飛び降りて死んでしまいたいよ・・・」
そう思い、駅のホームに佇んでいた、その瞬間。
どん!!
と、ふいに背中を強く押され、ホームから落ちそうになり、慌ててつま先立ちになって全体重を後ろにかけ、とどまろうとしたが、努力の結果もむなしく、線路にダイブしてしまった。
「いてぇ・・・・」
・・・まあ、電車が到着するまであと5分あるから、電車に轢かれて血まみれのどろどろになって人生強制終了って事態はなんとか避けられたけど。それにしても・・・僕、明らかに意図的に背中押されたよね・・・?一体誰が・・・?と、そのとき、
「きゃあ!大丈夫ですかぁ!?すいませぇんだぽん!!」