4:出会い
現状の様子に落ち込み、茂みに隠れて座り込んでいると、少し離れた場所から令嬢達の声がした。
「ん…?」
茂みから顔を出してその様子を覗くと、3人の令嬢が一人の令嬢に向かって何かを言っている。
私は少し気になり、静かに近づき、耳を立てる
「…ああ怖い、そんな目つきで睨まないでも良いじゃないですか」
「相変わらずラズリー様は酷い人ね」
「そうよ!謝りなさいよ」
近づくと7歳らしい幼稚な会話が聞こえ始める。
一人のラズリーという人が責められている状況のようだ。
3人組の真ん中いる令嬢が嘘泣きをして、他の二人が囃し立てるように甲高い声で話してる。一方のラズリーという令嬢はただその様子を眺め、黙っていた。
3人組の言葉を無視するようにラズリーは返事をしなかった。3人組はとにかくラズリーの人相を侮辱し続ける。
(3人組はラズリーさんを責めてるけど、これは…ラズリーさんが悪いわけじゃなさそうだな)
私がしばらく聞く耳を立てていると
「ちょっと!何か言いなさいよっ」
3人組の1人が鼻息を荒くしてを地団駄を踏む。ラズリーの態度に刺激されたようで、急にラズリーに近づき、手を振り上げ頬を叩こうとする。
「ちょ、流石にやりすぎじゃ!」
咄嗟に茂みから出て、声を荒げてしまう。
すると、頬を叩こうとしていた令嬢の手が止まりこちらを見る。
私は冷や汗をかきながら一歩前に出る。
「あ…その……俺は宰相家のセリアンだ」
私の宰相という言葉を聞いた途端、令嬢達は愛想笑いをし始める。
「聞いてくださいよ…あの人、私を睨んでくるんですよ?本当に怖くって」
と嘘泣きをしていた女が悪びれもない様子で私に近づいてきて、後を追うように他の二人も近づいてくる。
「セリアン様、ほらあちらで私たちと一緒にお話ししましょう」
「お菓子もありますし」
さっきまでとは違う猫被った様子に、心底、嫌悪の感情が溢れてくる。そして嘘泣きをしていた女が私の手を取ろうとしてきた。
「…俺はラズリー様に用があるんだ」
手を触られないように咄嗟に手を引っ込め、怒りを抑えて令嬢達の横を通りずぎる。
「すまないが、他を当たってくれ」
私は、そのラズリーという令嬢の手を取り歩いていく。肩越しに様子を覗くと3人が眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。
その場から離れて、しばらく歩いているとラズリーが口を開き
「……ありがとうございます」
と鈴のような声が聞こえた。
「いや…気にしないでくれ。こちらこそ、不躾なことをしてしまった」
私は振り向きラズリーを見ると、ラズリーは申し訳なさそうに目を伏せている。
燃えるような美しい赤色の髪に、猫のような吊り目は、いかにも悪役令嬢のような姿だった。
だが、女達が喚いていた瞳は怖いどころかとても可愛らしく感じる。
「改めて、俺はセリアン・ディ・シード、宰相家のものだ」
「私は…ラズリー・フィーノ…子爵のものです」
ラズリーがゆっくりと顔をあげると、彼女の猫のような瞳と視線が絡み合う。
吸い込まれそうな瞳を見つめていると急に、バチっと頭の中に音が鳴ったような気がする。
その時、私の記憶から何故か一人の人物がフラッシュバックした。
「…しょうたくん?」
読んでくださりありがとうございました。