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第6話:悪夢って怖いよな〜

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閑静な高級住宅街の一角に、自身の権力をひけらかすように一際大きい豪邸がそびえ立つ。その豪邸こそ、百年以上の歴史を持つ、西園寺家の邸宅である。

高貴さを感じさせる白色の外装に、他の邸宅よりも一際大きく、丁寧に整えられた庭を持つその屋敷は、圧倒的な権力を持つことを暗示している。


「……ほう、また一位か…しかしそれで満足するな、貴様は西()()()の跡取りとなる男。頂点に立つことは当然であると、努々忘れるな。」


「…心得ております。お父様。」


そんな豪邸の一室で、豪勢な食卓を囲む四人家族の姿、本来なら仲つむまじい光景のように見えるが、飛び交う会話の節々からは、そんな様子など微塵も感じられない空気の重さを感じさせる。


「まぁ良い、それよりも真希だ、あれほど努力をしておきながら、未だに兄に追いつけずにいる。西園寺の人間として恥ずべき事態である。」


「……申し訳ありません…お父様…」


「…失礼ですが、お父様。真希の努力は並大抵のものではありません。実際、今回の模試でも僕は後少しで真希に負けてしまうところでした。確かに真希には、僕ほどの才能は無いかもしれない。けど、真希の努力は本物です。少しは真希のことも褒めていただけませんか?」


「……なぜ敗者を庇う?貴様は勝者であり、あやつは貴様の才能の前に敗れた。それだけの単純な結果であろう。」


「……っ…!」


長男は父親に反抗した、自分の才能の前に、努力したはずの彼女が報われないことに憤ってか、彼は西園寺家で叩き込まれた丁寧な口調を崩すことなく、父親に立ち向かう。

当然、彼のその意見はこの家では絶対的な力を持った父親の前では、塵と等しく、無惨に散っていった。


「……もう良いでしょう、ご馳走様をして、もう寝る支度をしませんか…?」


か細い母親の声が、やけにこの食卓に響き渡り、全員がやけに気まずそうにご馳走様をした後、それぞれは自室へと戻って行った。


「……真希」


自室に戻ろうとする真希の背中を、長男は引き止める。彼女が自室に戻れば、また倒れるまで勉強してしまう。自分の才能に勝とうとする為だけに、何時間も、何日も、何週間も努力をし続けてしまう。

その姿を何回も見てきた以上、何も言わずに妹を送り出すことなどできるわけがなかった。


「……お兄様、わたくしは大丈夫ですので、どうかお休みなさってください。」


「…休むべきは真希の方だろ…お願いだから…真希にはこれ以上傷ついて欲しくないんだよ…僕の才能で…」


「……お父様も仰っていたはずです、『敗者に情けをかける必要などない』と…お願いですからわたくしに構わないでください…これ以上あなたに優しくされたら……」


「真希…!」


彼の慟哭も虚しく、真希は自室へと戻っていく。


―――


「……チッ」


夢から目が覚めた、やけに鮮明に声が聞こえたその夢は、彼にとっては最悪の酷い夢だった。

極限まで目覚めの悪い夢を見させられた涼介は、とりあえず起き上がり、いつものように洗面所に向かおうとしたが、全身を違和感が駆け巡る。


「……ぁ…?」


起きて早々のめまい、倦怠感、頭痛。間違いなく、涼介の体調は最悪レベルだった。


「……これは…今日は休むか…」


やけに冷静な脳を動かし、涼介はスマホを充電器から外し、チャットアプリで一真と連絡を取った。


『一真、今日休むって先生に言っといてくれ』


『は?どうしたんだよお前』


『クソ体調悪い』


『大丈夫か!?お見舞いに行ってやろうか!?』


『いらん、静音呼ぶし、お前が行くと悪化しそう。』


『はいはいそうですか!女子に看病してもらって良かったですね!!!』


『いいだろ彼女なんだから』


いつものように雑に返答した涼介は、一真から送られてきた憤慨を表すスタンプを無視して、静音とのチャットに移った。


『授業終わってからでいいから風邪薬とか経口補水液とか持ってきてくれ』


『いいけど、どしたの?』


『風邪ひいたかも』


『大丈夫?』


『大丈夫じゃなきゃこうやってメッセージ送れてない』


『だよね、授業終わったらすぐ行く。』


それだけを言い残して、静音のチャットが終わるや否や、涼介は重たい身体を無理やり動かし、洗面所へと向かう。


「だる…」


軽く舌打ちをし、水で軽く顔を洗い、歯を磨いた涼介は、体温計と水とマスクを持ってひたすら自室に籠ることにした。


「授業無いって…意外と暇だな…」


スマホすら触るのがやっとな状況で、一秒、また一秒と刻んでいくデジタル時計を見つめながら、あまりの暇さに少し嫌気が差していた。


しかし、そんな状況でぼんやりとしていた涼介の脳を叩き起すように、家のチャイムが鳴る。それも、マンションのエントランスのものだった。


「静音か…」


チャイムによって叩き起こされた涼介は、未だ劣悪な状況にある身体を動かし、オートロックを解錠する。

しばらくベッドで横になって待っていると、玄関ドアのチャイムが鳴らされる。十中八九静音である。


玄関の鍵を開け、迎え入れるようにドアを開けると、当然そこには静音が立っているのだが…


「……なんでお前までいるんだよ…未玖…」


「来ちゃった♡」


「何が『来ちゃった♡』だよ……静音、説明を…」


「説明をって言われても…未玖が『私も行きた〜い!』って言うから連れてきただけだし…」


「なんでそこで連れてくるかなぁ…!?」


未玖の強引っぷりと静音の傍若無人っぷりが見事に噛み合ってしまった結果、完全に涼介の想像の斜め上を行く事態になってしまったことに一種の呆れを覚え、涼介は体調不良でやられきっていたのも相まって、思考するのもめんどくさくなり、二人を家に招き入れた。


「へぇ〜…涼介くんの家…結構綺麗…」


「第一声がそれか…いいからさっさと部屋から出てくれ…」


「えぇ〜?病人はちゃんと寝ててくださ〜い。それに、ちゃんとわたしたちが見守っててあげるから、ね?静音ちゃん?」


「そうだけど…未玖もあんまり近づかないでよ?移ったら困るし…」


「はいは〜い」


静音に諌められ、そそくさと涼介から少し離れた未玖は、未だに涼介の部屋をジロジロと見ており、その視線に耐えきれなくなった涼介は、咄嗟に指を部屋の外に向け、未玖に言い放った。


「……とりあえず、リビング行こっか。」


「えっ…♡」


「静音、追い出せ。」


「あいあいさー」


静音の助力により、部屋から未玖を追い出すことに成功した涼介は、全てのやる気が消失したように、ベッドに倒れ込んだ。


「はぁ……どいつもこいつもめんどくさ…」


完全に一人きりにになった空間で愚痴をこぼす涼介は、今日見た悪夢と相まって完全に憔悴しきっていた。


「…ほんと俺って傲慢だよな。才能に驕るだけで何もしちゃいない、努力できてるやつの方がずっと俺よりもすごいよ…」


これまでの自分がいかに才能に頼りきりであったこと、そして、その才能でいくつもの努力を踏みにじってきたことを改めて思い知らされ、御し難い感情に駆られる。


「…才能あったって、なにもいいことないな。」


数年前から出ていた結論、それをこのような形で思い知らされ、涼介にはもう、どうすることも出来なかった。

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