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第4話:かわいいことを自覚してる女子はいいぞ

まず、遅れて申し訳ございません。深刻なまでのネタ切れと私自身の語彙力不足、そして夏休みの課題という三要素が見事なまでに噛み合ってしまった結果、夏休み期間中ずっとゼ〇ダとかブル〇カとかとか学〇スとかモン〇トとかやってました。

「……お…わっ…たぁ……!」


テスト最後の教科が終了し、一抹の達成感を覚えた涼介は、急激に伸びをし、声にならないような声を上げてテスト終わりの余韻に浸る。


「おつかれ、涼介くん♪」


背後からふわっとした声が聞こえ、思わず涼介は後ろに振り向いてしまう。そこにあった、屈託のないにこやかな笑顔。

後ろで結んでいる、サラリとした色素の薄い茶色の髪。誰もが釘付けになってしまう、可愛らしく、どこか儚さも感じさせる優しい顔立ち。ほっそりとした四肢や、肉体であるものの、確かに女性らしい曲線が刻まれている。

彼女の名は一ノ瀬未玖。その圧倒的なかわいらしさで学園の男女問わずに虜にし、今では学園のアイドル級的存在として、一部の男子からもはや神格化され、崇拝されているような少女である。


「……ん?…あぁ…一ノ瀬ね…」


「ん〜…」


涼介が一ノ瀬と名を出した途端に、不満そうに頬を膨らませ、涼介の額を指で軽く弾く。


「痛っ…?」


「む〜…『一ノ瀬』、じゃなくて『未玖』って呼んで欲しいな〜」


「はぁ…?」


「ほら、早く〜『未玖』って二文字言うだけだよ〜」


「分かったから…未玖。これで満足か?」


「うん!大満足!」


涼介が未玖と名前を呼んだ途端に、非常に満足気な様子で彼女は微笑んでみせる。その完成され尽くされた笑顔に、涼介は少したじろいでしまった。


「ちょいちょい…なーに人の彼氏に手出してんのよ」


そんなニコニコ笑顔の未玖の後ろからさらに、先程までの会話を見ていた静音が不機嫌そうに近づいてくる。


「え〜…ちょっとお話してただけだって〜…それに涼介くん、学年でも結構注目されてるんだよ〜?『もしかして結構イケメンじゃない?』ってさ〜…もしかして静音ちゃん……嫉妬…?」


「はぁ…そうよ嫉妬だけど…?未玖こそ、やろうと思えば男子なんていくらでも寄ってくるでしょ…?なんでわざわざ涼介に…」


「いいじゃん別に〜少しでもファンは多い方がいいでしょ?ねっ?」


「なんでわざわざ俺に聞く」


突如として会話の矛先が涼介に向き、 完全に意識外から話しかけられてしまった涼介は、不機嫌そうに未玖を見つめる。


「まぁでも、見てくれる人が多い方がいいのは事実かもな。」


どこか達観した様子で、ヘラヘラとしながら言ってみせる涼介。しかしその一字一句からは、まるで経験者かのような、絶対的な説得感のようなものを、二人に感じさせた。


「そ…そうだよね!やっぱり私、涼介くんと気が合うかも…!」


「どうだか…」


涼介のその言葉に、少なからず戸惑いを隠せない未玖は、せめて取り繕おうと笑顔をやめずにその言葉に言葉を返す。しかし、その笑顔には隠しきれないほどに虚無が滲み出ていた。

そんな様子を見ていた静音は、被せにいくように呆れた様子で懐疑的な言葉を発した。その笑顔を疑り深く探るように。


「……あ、そうだった、涼介。」


「ん?」


「私今日委員会あるから、結構長引きそうだし先に帰ってて。」


「意外。『委員会終わるまで待ってて』とか言い出しそうだったのに。」


静音のその言葉に、涼介は思わず意外そうな様子で返答してしまう。


「……涼介は私のことなんだと思ってるのよ…流石に日が暮れるまで待たせる訳にはいかないし…」


「ごめんて…」


「……はぁ…わかったから…もう時間だし行くね。」


そう言うやいなや、静音は踵を返し、不満気な様子で委員会にへと向かう。

既にクラスメイトの全員が帰ってしまい、教室の電気も消され、クーラーの音しか聞こえないような空間の中で、涼介と未玖は二人取り残されてしまった。


「…静音ちゃん…行っちゃったね…」


「……だな」


なんとも言い難い気まずい空気の中で、意を決したように未玖が初めに口を開ける。


「……ねぇ、涼介くん。」


「……何?」


「……暇だし、お茶にでも行かない?」


「さっきまでの話聞いてたか?」


意外、それは未玖からのお茶の誘いだった。しかし、その上で涼介は、さっきまでの静音の念押しをあっさりと無視するかのような発言に違和感を抱えていた。


「聞いてたよ〜…けどそれはそれとして涼介くんとは仲良くなりたいな〜ってさ〜…」


「なら……いいのか……?」


この瞬間、自分の意思の弱さを少なからず嘆いた涼介だった。


―――


「……なんか…前もこの店来た気がする…」


「さぁ?ただの偶然じゃない?」


意図的か、はたまた偶然の産物か、先日静音と行った店に連れていかれた涼介は、その場の流れで結局未玖とお茶をすることになってしまい、涼介には内心なんとも言い難い罪悪感のようなものが渦巻いていた。


「……楽しくない?」


「へ?」


「だって涼介くん、ずっと窓の方ぼーっと見てる。」


「いや…これは…」


「……そうだよね、涼介くんには静音ちゃんっていう彼女がいるんだから…やっぱり私、邪魔だよね…」


(……めんどくせ〜…)


留まることを知らない未玖の自己否定に、涼介は思わず柄にもないようなことを思ってしまっていた。


「……別に、邪魔だと思ってるならこんなとこわざわざ行ってないし、そもそも…言っちゃあれだけど可愛い女子とカフェ行くってなって行かない男子なんか存在しないからな…?」


「へ…?」


(まぁ…こんなもんでいいだろ…)


とりあえずそれっぽいことを言っておけば、惚れるとまでは言わなくても勝手に気分を治してくれる。そう思っていた涼介なのだが、実際はそう甘くは……


「……えへへ…そっか…そうだよね…!」


「……え?」


そう甘かった。はっきり言ってしまうなら、未玖は確実にちょろい。そんな等式がたった今涼介の脳内で成立してしまった。


「……そうだよ…!かわいい女の子に誘われて行きたくない男の子なんて居ないもん…!ね!?」


「……へ?…まぁ…はい…?」


「んふふふふ〜♡」


そして、涼介から多少褒められた瞬間に一気に口角の角度が急激に上昇し、「そんなに褒めないでよ〜♡」とでも言いたげそうに、どこをどう見てもかわいいとしか認識できない笑顔を隠し、発音出来ているかすら怪しい声を垂れ流している。


「まぁ…うん、満足してくれたなら良かった。もう食い終わったろ、さっさと出よう。金は出すから。」


「…え?お金出してくれるの?」


「……女子に財布出させるのもあれだし、いちいち割り勘してる時間が無駄だろ…」


「ふぅ〜ん…?」


怪訝そうな目で涼介を見つめる未玖だが、次第ににこやかな笑顔のまま、涼介の奢る宣言に特に文句を言う訳でもなく、涼介と並んで会計に向かった。


「えへへ…出会って早々奢ってくれるなんて…優しいんだね、涼介君♪」


「……なんとでも言え、早く帰りたい。」


「はーい♪」


会計を済ませ、それぞれが帰路に着こうとしたタイミングで未玖が涼介の制服の袖を掴む。逃がさんとせんばかりに、涼介を捕まえて以降一向に動こうとしない未玖に、涼介は困惑する。


「……あの?未玖さん?」


「……」


「うんとかすんとか……言ってくれません…?」


「……すん」


「小学生かよ……んで?なんでこんなことを?」


「……だって、寂しいもん。」


唐突な未玖の奇行に困惑し、その行動の理由を聞いた涼介だったが、あまりにもシンプルかつ、ちょっと意味わからん理由を堂々とぶつけられた涼介は、困惑することしか出来なかった。


「……あっそ、どうせ明日も会えるんだから、早く離してくれ…」


「……本当?」


「……明日来たら結果は明白だろ。じゃあな。」


それだけを言い残し、涼介はスタスタと帰路に着くが、未玖の瞳には不思議と、それが冷たい行動のようには見えなかった。


「……ほんとずるいよね、涼介くん。」


湿り気のある声色で去りゆく涼介の背中を眺めながら、誰にも聞かせないような声量で未玖はボソッと呟く。


「…静音ちゃん…いいなぁ、あんな彼氏がいて…あんなことされたら……みんな涼介君のこと好きになっちゃうよ…」


そう言って自分の制服の裾を握りしめる。結末は容易に想像できるというのに、彼女は「西宮涼介」という存在に心を支配されてしまったがために、彼女の中の何かを目覚めさせてしまった。


「……涼介君は、私だけのものにするから。」


そんな決意を固めた彼女は、日が沈みかけていく空の元、帰路に着いた。


「……涼介君だけだもん、わたしの本質を見抜いてきたのは…だからいいよね…」


破綻した理論を振りかざし、涼介への想いだけが独り歩きしだした彼女を止めれる術は、もうない。

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