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第14話 星屑の溜まり場

首都ルインの裏路地にて、馬車を倉庫に収めたあと、ヴェルカは安堵とともに背伸びをした。

 その瞬間──

 《サブクエスト『共に首都へ!』成功条件1を達成しました!》 

 《クエスト完了可能です。報酬を受け取りますか?》

 浮かび上がった青白いウィンドウに、ヴェルカがにやりと笑って頷く。

「──あぁ。クエスト完了だ」

 《クエスト完了!》 

 《報酬:経験値+7800、5000Gを獲得しました》 

 《レベルアップ:Lv79 → Lv80》

 ライがその光の演出を見て、ヴェルカへ目を向ける。

「……それは、なんだ?」

 ヴェルカは肩をすくめた。

「ああ、クエストさ。『異端容疑のNPCを首都まで届けろ』って依頼だったんだよ」

 ライの表情が少しだけ固くなる。

(クエストだったのか。特に自分がどうこうしたつもりはないが…俺の深層心理がクエストという形で表示されたのか?そして「クエスト完了」の宣告。条件分岐があったクエストってわけか)

「……もしかして俺を突き出すか、助けるか…選べたんじゃないか?」

「ははっ。まあ、そういう感じだな。でもな、俺は自分が選んだことに後悔してない」

「……そうか」

 ライは静かに視線を伏せたあと、懐から一枚の設計図のようなものを取り出した。古びた紙だが、魔導工学の細かい線が無数に走っている。

「ヴェルカ。俺なりに、お前にできることを考えてみた」

《ライとの好感度が一定値を超えました》

「なんだい、これ?」

「《超次元ポーチ(小)》のレシピだ。一定量のアイテムを圧縮して収納できる、いわゆる“空間拡張術”を応用したアイテム。重量もそのままだから、持ち運びには最適だ」 

《特殊報酬:超次元ポーチ(小)のレシピを獲得!》

 ヴェルカは呆けた顔のまま、設計図を両手で受け取る。

「……相棒、こいつは……」

「商人であるお前には、使い道があると思った。素材はこの街のオークションでも揃うはずだ」

 ヴェルカはしばらく沈黙したあと、ふっと笑った。

「……なんだってんだ。貸し借りとか、抜きにしようぜ。お前がいたから、俺も首都に無事着けたんだ。おあいこさ」


「じゃあ品出しの準備を始める。お前も寄ってけよ。」

ヴェルカが倉庫の鍵を外し、軋む扉を開けると、中からは木箱や布袋が整然と積み重ねられた空間が現れた。

古びた棚に並ぶ薬瓶や乾燥食、簡易装備。

商店というよりも、旅人の秘密基地のような雰囲気だ。


「結構いろんなもの置いてんだな。」

ライが周囲を見回しながら呟くと、ヴェルカが得意気に肩をすくめた。

「お客様のニーズに合わせた品揃えってわけよ!旅に役立つものなら、何でも置いてるさ。」

「なあ、魔法系のスクロールってあるか?」

ライの問いに、ヴェルカはニヤリと笑い、奥の棚から一枚の巻物を取り出した。

「とっておきのもんがあるぜ。MP0でも使える優秀な攻撃魔法、《火球》。小規模の炎魔法を3回使用可能だ。爆発範囲は控えめだが、威力は十分。雑魚散らしにも牽制にもぴったりさ。」

「なるほど……不意打ちにも使えそうだな。」

ライは巻物を手に取り、布の上に刻まれた古代魔術文字に視線を走らせた。かすかに赤い光が脈動する。

「魔法系スキルがなくても発動できるし、巻物ってのは本来、魔術職以外のためのものだからな。備えとしちゃ悪くない。」

ヴェルカはそう言うと、隣の箱から小型の回復薬、簡易解毒薬なども並べた。

「ついでにこれも補充しとけ。何があるかわからねぇ。」

「……助かる。」

ライは無言で数本のポーションを手に取り、小袋に収めた。

「今日はお得意様価格でいっとくぜ。命の恩人には恩を返さねえとな。」

「気前がいいな。」

「商売人の勘ってやつさ。」


ライは購入したポーション類を袋に詰め終え、肩に担いだ。軽く会釈をして、ヴェルカに言葉を投げる。

「……本当に、色々世話になった。命まで救われた。感謝してもしきれない」

ヴェルカは肩をすくめて笑った。

「寂しいこと言うなよ。俺はまだ数週間はここにいる。この街を出る前にでもまた顔出してくれ。いい情報と、いい感じの稼ぎ話くらいは用意しとくさ。」

ライは少し笑って、手を差し出した。

「それじゃ……またどこかで。」

「“また”じゃない。“すぐ”さ。商売ってのは縁が命。次は、どんな土産話を持って帰ってくるか、楽しみにしてるぜ?」

ガシッと交わした握手には、奇妙な旅の中で育まれた確かな信頼が込められていた。



店の外に出ると、ルインの街並みは昼の喧騒の真っただ中にあった。人々が行き交い、露店の叫び声が飛び交い、剣を背負った冒険者たちが路地を抜けていく。

(……さて、次は)

ライは折れた剣のことを思い出す。自衛のためにも武器を買い揃える必要がある。

(この街なら、武器屋も相応の品を揃えてるはずだ……あの店もまだ残っているだろうか)

視線を街路の先に向けると、金属を打つ音が微かに聞こえた。

武具店や鍛冶場が並ぶ商業区の一角。ライはそちらへと歩を進めた。


ヴェルカの商店を後にしたライは、賑やかな商業区の喧騒から遠ざかるように歩き出した。目指す先は、記憶の奥にだけある──名もなき裏路地の奥にひっそりと存在する、寂れた武器屋。

かつてプレイヤーとしてこの街を訪れたとき、偶然見つけた場所だった。地図にも記載されず、表通りの店とは違って一切の広告もなかったが、そこに並ぶ武具の質と性能は一級品。

レイヴンがLv100代だった頃に愛用した武器もここの品だ。

「たしか……この角を曲がって、さらに奥……」

整備もされていない、崩れかけた石畳の通り。陽がほとんど届かないその路地には、住人すら姿を見せない。だが、ライの足取りは確かだった。

やがて、薄汚れた木扉の前にたどり着く。看板もなければ、開店を知らせる明かりもない。ただ、扉の上に打ち付けられた古びた鉄板に、うっすらと読み取れるようにこう記されていた。

──《星屑の溜まり場》

ライは扉に手をかけた。もしかしたらとっくに潰れているかもしれない。微かな期待を抱きながら扉に手をかける。

「……開いた」

ギィ、と軋む音とともに、扉はゆっくりと開かれた。

中はほこりっぽく、照明も暗く、ひどく無愛想な空間だった。だが、並ぶ武具のひとつひとつに、精緻な技術と鋭い殺気が込められていた。

カウンターの奥にいたのは、白髪交じりの短髪を持つ老人だった。鍛冶屋というよりは、戦場を渡り歩いた傭兵のような鋭さを瞳に宿している。

「珍しいな。客は1年ぶりだ。」

ライは黙って一歩前に出た。

「武器が欲しい。手に馴染む一本を持っておきたい」

「そこに置いてあるもんは全部売り物だ。好きなもの持っていくといい。」

ライは複数の剣を吟味する。

(せめてウィンドウさえあれば。これじゃ剣の等級すらわからねぇ。看破系の心得を得る前にここに来たのは失敗だったか…?)

ライは、棚に並べられた剣の中から、一本の長剣にふと目を留めた。

ほかの武器よりも目立たず、鍔の装飾も簡素なそれは、一見すると量産品のような印象を与える。

だが──近づくにつれ、ほんの僅かに皮膚の奥がざわついた。

(……妙な感覚だ)

手に取ると、確かに軽い。だが、芯がある。重さではない、“何か”がこの刃の奥に潜んでいるような気がした。

「それを選ぶとは、また珍しいな」

カウンター越しに、老職人が目を細めた。

「そいつは、出所も鍛冶師の銘もいまだ不明。奇妙なことに、研いでも刃こぼれせず、放っておいても錆びつかねえ。かといって、魔剣と認定されたわけでもない」

ライは、剣を鞘ごと腰に収めてみる。重量も癖も、自分の体にぴたりと馴染んだ。そのとき──視界の端に、ほんの一瞬、紫黒いモヤのようなものが揺らめいた気がした。

(……今のは……?)

「時々、そいつを手に取った奴は言うんだ。『背後に誰かの気配を感じた』とか、『夢の中に現れる』とか……な。だが、今までで暴走した形跡もない。つまり、“封じられてる”んだろうよ」

ライは眉をひそめた。

「封じられてる?」

「昔の言い伝えじゃ、魂を喰う剣ってのは本性を隠して“自らを選ばせる”らしいぜ。ま、俺は信じちゃいねえがな」

そう言って、老職人は苦笑した。

「ただ……そいつを本気で抜いたとき、何が起きるかまでは知らねえ。だから、使うなら覚悟しとけ」

ライは剣を見つめる。

(魂を喰う剣、か──)

だが、不思議と恐怖はなかった。むしろ、どこかで“これだ”と感じた確かな直感が、胸の奥で静かに脈を打っていた。

「この剣、もらっていく。値は?」

「銀貨三十枚。だが……何かあったら戻ってこい。そいつの様子を確かめてやる」

「分かった」

《「無銘の黒」を手に入れた》

ライは銀貨の袋を渡し、深く頭を下げた。


街の鐘が夜の到来を告げる。彼の影が、石畳に長く伸びていく。

設定その1 武器

・武器には複数の等級があり下位から順に

ノーマル コモン アンコモン レア ユニーク エピック レジェンダリー

(しなやかな長剣はノーマル等級。レーヴァテイン(第二段階)はエピック等級。)

・ノーマル、コモン、アンコモン等級には質に応じたランク分けがありA+〜D-まで存在する。

・レア等級以上の武器の一部は固有スキル、特殊条件を持つ場合がある。

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