表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/76

第75話:新たな一歩

「新生活、初日の朝です」


Atelier Traditionの作業場で、千秋は早朝から針を持っていた。結婚から一週間、アトリエは新しい活気に満ちている。窓から差し込む光が、作業台の上の試作品を優しく照らしていた。


「おはよう」


振り返ると、蓮が立っていた。いつもの完璧なスーツ姿だが、その表情には穏やかな幸せが滲んでいる。


「おはようございます」千秋も微笑む。「蓮さん」


その呼び方には、まだ少し照れがあった。仕事場では変わらず敬語を使うことにしているものの、二人の間には確かな親密さが芽生えていた。


「これは」蓮が試作品を手に取る。「新しい技法ですか」


「はい」千秋が説明を始める。「光の当て方で、模様が」


二人の会話は自然と専門的な内容に移っていく。それは研究者同士の対話であり、同時に夫婦の温かな時間でもあった。


その時、アトリエのドアが開く。


「失礼します」


春樹が入ってきた。手には新しい企画書。


「パリからの」春樹が差し出す。「研究センターの件で」


欧州での技法継承プログラム。それは、二人の夢をさらに大きく広げる可能性を秘めていた。


「それと」春樹が続ける。「若手育成の新しい応募が」


アトリエの評判は、日増しに高まっていた。伝統と革新の融合を目指す場所として、多くの期待が寄せられている。


「本当に」春樹が懐かしむように。「ここまで来ましたね」


その言葉に、二人は顔を見合わせて微笑んだ。


アトリエの窓から、夏の風が入ってくる。カーテンが、新しい季節の訪れを告げるように揺れる。


「お二人に、報告が」春樹が資料を取り出す。


そこには、世界からの新しい評価が並んでいた。伝統技法の現代的解釈への賞賛。そして、次世代育成への期待。


「これは」千秋が目を輝かせる。「私たちの夢が」


「ええ」蓮も頷く。「やっと、形になってきた」


その時、研修生たちが次々とアトリエに集まってきた。


「先生」若手デザイナーの一人が前に出る。「新しい試作品が」


作業台には、彼らの成果が並べられる。まだ荒削りだが、確かな可能性を感じさせる作品の数々。


「素晴らしい」蓮が一つ一つ丁寧に見ていく。「この発想が」


研究者としての目が、輝きを増す。


千秋も、若手たちの成長を温かく見守っていた。


「みんな」千秋が優しく言う。「素晴らしい進歩ね」


アトリエには、新しい朝の光が満ちていく。

その光が、未来への道を照らすよう。


「では」春樹が立ち上がる。「今日の予定を」


打ち合わせが始まる。展示会の準備、研究発表の内容、そして若手育成プログラムについて。


「この部屋は」千秋が図面を指さす。「技法の展示に」


「そして」蓮が続ける。「ここで、研究会を」


二人の意見は自然と重なり合い、互いの想いを補完していく。


春樹は、そんな様子を見守りながら、深いため息をついた。


「これで良かった」彼は小さく呟く。「最高の形になった」


アトリエの窓から、京都の街並みが見える。伝統と現代が調和する景色。まるで、二人の人生のように。


「さて」蓮が千秋の方を向く。「新しい技法の研究を」


「はい」千秋も力強く。「私たちの道を」


作業台の上で、三本の針が静かに光を放っている。

それは過去から未来への架け橋。

そして、永遠の愛の証。


全てが、今、確かな形で動き始めていた。

それは伝統と革新の調和。

そして、二人で紡ぐ新しい物語。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ