第71話:革新の風
「海外展開の詳細について、ご報告いたします」
Atelier Traditionの会議室で、千秋は新しい企画書を広げていた。講習会から一週間。パリを拠点とした国際プロジェクトが、具体的な形を見せ始めていた。
「まず」千秋が説明を始める。「欧州での研究センター設立について」
朝日が差し込む会議室には、春樹と蓮、そしてマリーが集まっていた。パリからの連絡も、次々と希望的な内容が届いている。
「具体的には」春樹が補足する。「フランスを中心に、五カ国での展開を」
その時、会議室のドアが開く。
「失礼します」
研修生の代表が入ってきた。海外プロジェクトへの参加を希望する若手たち。
「私たちも」彼らが真摯に。「世界への扉を」
千秋は温かく頷いた。
次世代を担う彼らの情熱が、新しい可能性を開いていく。
「まさに」マリーが熱心にメモを取る。「技法の世界的な広がりですね」
蓮は静かに微笑んでいた。
かつての自分のように、世界を目指す若者たち。
「このプロジェクトは」蓮が前置きする。「単なる技術の輸出ではありません」
会議室が静まり返る。
「伝統と革新の融合」蓮が力強く。「それを世界の舞台で」
千秋も心を打たれる。
それは二人が追い求めてきた、究極の目標。
「具体的な展開として」春樹が資料を示す。「各国での研修プログラム」
計画は着々と形になっていく。
研究センターの設立。国際シンポジウムの開催。そして、次世代育成プログラム。
「風間さん」マリーが千秋に向かって。「パリでの反響は、すごいんですよ」
確かに。欧州のファッション界からは、既に多くの期待の声が寄せられていた。
「でも」千秋が静かに言う。「これは始まりに過ぎません」
その言葉に、蓮は深く頷いた。
「その通りです」蓮が千秋の横に立つ。「私たちの挑戦は、まだ」
アトリエの窓から、京都の街並みが見える。
伝統と現代が調和する景色。
その美しさを、世界へと伝えていく。
「さて」春樹が立ち上がる。「具体的な準備に入りましょうか」
会議は実務的な段階へ。
しかし、その空気には確かな希望が満ちていた。
「篠原様」千秋が蓮に向かって。「これからの道のりを」
「ええ」蓮が優しく微笑む。「共に、世界へ」
研修生たちも、その言葉に力強く頷く。
彼らの目には、新しい時代への期待が輝いている。
「では」春樹が締めくくる。「パリでの開設準備を」
会議が終わり、アトリエには静けさが戻ってきた。
「風間さん」蓮が千秋に近づく。「今日は特別な日になりそうです」
「え?」
「実は」蓮が続ける。「パリから、嬉しい報告が」
フランスの文化勲章の授与が決定したという。
伝統技法の継承と革新への貢献が認められた形だ。
「これは」千秋の目に涙が浮かぶ。「私たち二人への」
「ええ」蓮が千秋の手を取る。「共に歩んできた証です」
アトリエには、新しい風が吹き始めていた。
それは世界への扉を開く風。
そして、二人の愛が紡ぐ革新の風。
「さぁ」蓮が千秋を促す。「次の一歩を」
「はい」千秋も力強く。「私たちの夢を」
二本の針が、朝の光を受けて輝いている。
それは世界への架け橋。
そして、永遠の愛の証。
全てが、今、新しい形で動き出そうとしていた。
それは伝統と革新の調和。
そして、世界へと羽ばたく愛の物語。
(つづく)




