第69話:結ばれる糸
「新しいプロジェクトの発表をさせていただきます」
Atelier Traditionの大広間で、春樹が静かに口を開いた。継承式から一週間。アトリエの新たな挑戦が、今まさに始まろうとしていた。
「水城さんから」千秋が蓮の隣で説明を加える。「素晴らしい提案を」
朝日が差し込む会場には、研修生たちが期待に満ちた表情で集まっていた。
「今回のプロジェクトは」春樹が続ける。「世界規模での技法継承を目指します」
会場から、小さな驚きの声が上がる。
「具体的には」春樹が資料を示す。「パリを拠点とした、国際的な研究センターの設立」
マリーが目を輝かせながら、熱心にメモを取っている。
「まさに、理想的な展開です」
「そして」蓮が一歩前に出る。「このプロジェクトのリーダーとして」
千秋は息を呑んだ。
「風間さんに」蓮がまっすぐに千秋を見つめる。「お願いしたいと思います」
会場が静まり返る。
それは単なる人事異動以上の、重要な意味を持つ決定だった。
「私に」千秋の声が僅かに震える。
「ええ」蓮が温かく微笑む。「あなたしかいない」
春樹は、そんな二人の様子を見守りながら、静かに頷いていた。
「これぞ」春樹が小さく呟く。「最高の形」
研修生たちも、喜びの表情を見せている。
「先生」若手デザイナーの一人が前に出る。「私たちも、必ず」
その決意に満ちた言葉に、千秋は胸が熱くなる。
「みんな」千秋が優しく応える。「一緒に、夢を追いかけましょう」
アトリエには、朝の光が満ちていく。
その光が、新しい時代の幕開けを告げるよう。
「風間さん」マリーが近づいてくる。「パリで、また素敵な物語を」
「ありがとうございます」千秋が微笑む。「今度は、世界への扉を」
蓮は、そんな千秋の横顔を温かく見つめていた。
「風間さん」蓮が静かに声をかける。「覚えていますか」
「はい?」
「パリで過ごした日々」蓮の声が柔らかくなる。「あの時の夢が、今」
千秋も、その記憶を優しく思い返す。
研究ノートとの出会い。そして、新しい技法の誕生。
「全てが」蓮が続ける。「一つの形になろうとしている」
アトリエの窓から、京都の街並みが見える。
伝統と現代が調和する景色。
まるで、二人の人生のように。
「これからも」蓮が千秋の手を取る。「共に、世界へ」
「はい」千秋も力強く。「私たちの夢を」
春樹は、そんな二人の姿を見守りながら、深いため息をついた。
「長かったけど」春樹が懐かしむように。「全てが、最高の形に」
さくらと玲奈も、温かな表情で見守っている。
「本当に」さくらが嬉しそうに。「素敵な物語になりましたね」
アトリエには、新しい風が吹き始めていた。
それは伝統と革新の風。
そして、永遠の愛を誓った二人の物語の風。
「さぁ」蓮が千秋を促す。「新しい一歩を」
「はい」千秋も力強く。「私たちの道を」
二本の針が、朝の光を受けて輝いている。
それは過去から未来への架け橋。
そして、二人の絆の証。
全てが、今、新しい形で結ばれていく。
それは伝統と革新の調和。
そして、世界へと羽ばたく愛の物語。
(つづく)




