第68話:新たな針
「継承式を始めさせていただきます」
Atelier Traditionの大広間で、千秋は深々と頭を下げた。特別展の成功から一週間。伝統技法の正式な継承を記念する特別な日を迎えていた。
「本日は」千秋の声が静かに響く。「大切な技法を託してくださった、皆様への感謝を込めて」
会場には、日本全国の伝統工芸の継承者たち。そして、パリからの取材陣。さらには、初期の研修生たちも参列していた。
「この技法は」蓮が千秋の横で続ける。「私たちの祖母から受け継いだ、大切な宝物です」
朝日が差し込む会場で、二人の言葉が響く。
「そして今」千秋が力強く。「次の世代へと」
その時、研修生たちが整然と並んで前に進み出る。
「私たちは」若手デザイナーの代表が声を上げる。「この伝統を、必ず」
彼らの目には、確かな決意が宿っていた。
「素晴らしい」
蓮の祖母の同僚が、感動的な表情で立ち上がる。
「これこそ」彼女が続ける。「真の継承というもの」
マリーは熱心にメモを取りながら、目を輝かせていた。
「伝統と革新の、新しいかたち」
春樹は後方で、親友の晴れ舞台を静かに見守る。
「長かったね」
「本当に」玲奈も感慨深げに。「ここまで来るのに」
さくらは、兄と千秋の姿を誇らしげに見つめていた。
「二人らしい、素敵な形に」
継承式は厳かに進んでいく。
一人一人の研修生たちに、技法の証が授与される。
「これからは」千秋が若者たちに向かって。「皆さんの力で」
「はい」研修生たちの声が重なる。「必ず、この技法を」
蓮は、そんな光景を温かく見守っていた。
かつての自分のように、伝統に向き合う若者たち。
「風間さん」蓮が千秋に向かって。「思い出すことがあって」
「はい?」
「あの日」蓮の声が柔らかくなる。「初めてアトリエを訪れた時」
千秋も、その記憶を優しく思い返す。
さくらのドレスから始まった、奇跡のような物語。
「あの時は」蓮が続ける。「想像もできませんでした」
「ええ」千秋も微笑む。「こんな日が来るなんて」
アトリエの窓から、京都の街並みが見える。
伝統と現代が調和する景色。
まるで、二人の人生のように。
「これからも」蓮が千秋の手を取る。「共に、歩んでいきましょう」
「はい」千秋も力強く。「私たちの道を」
式典の後、アトリエには温かな空気が満ちていた。
「風間さん」マリーが近づいてくる。「素晴らしい記事になりそうです」
「ありがとうございます」千秋が微笑む。「パリでの思い出が、また一つ」
研修生たちも、喜びに満ちた表情で談笑している。
「先生」若手デザイナーの一人が近づく。「これからも、ご指導を」
「もちろん」千秋が優しく応える。「一緒に成長していきましょう」
春樹は、そんな光景を見守りながら、深いため息をついた。
「全てが」春樹が静かに。「最高の形になったね」
「ええ」蓮も頷く。「風間さんのおかげで」
アトリエには、新しい風が吹き始めていた。
それは伝統と革新の風。
そして、永遠の愛を誓った二人の物語の風。
「さぁ」蓮が千秋を促す。「新しい一歩を」
「はい」千秋も力強く。「私たちの道を」
二本の針が、朝の光を受けて輝いている。
それは過去から未来への架け橋。
そして、二人の絆の証。
すべてが、今、新しい形で実を結んでいく。
それは伝統と革新の調和。
そして、永遠に続く愛の物語。
(つづく)




