第66話:始まりの朝
「新しい一日の始まりです」
Atelier Traditionの朝。千秋は早朝から作業台に向かっていた。結婚式を一週間後に控え、アトリエはいつも以上の活気に満ちている。
「本当に」玲奈が感慨深く。「あっという間だったわね」
朝日が差し込む作業場には、既に研修生たちが集まっていた。彼らの目には、確かな成長が宿っている。
「風間さん」
振り返ると、マリーが立っていた。パリでの成功以来、定期的に取材に訪れている。
「今日は」マリーが嬉しそうに。「特別な企画の取材で」
その時、アトリエのドアが開く。
「おはようございます」
蓮が入ってきた。完璧なスーツ姿。しかし、その表情には穏やかな柔らかさが溢れている。
「風間さん」蓮が近づく。「新しいプロジェクトの件で」
二人の前には、欧州での展開計画が広げられていた。研究会の成功を受けて、世界的な規模での技法の継承が現実味を帯びてきている。
「それと」蓮が新しい書類を取り出す。「研修生たちの成果報告も」
千秋は満足げに頷いた。
若い世代への技法の継承。それは二人の大切な使命でもあった。
「本当に」マリーがノートを取りながら。「理想的な形になってきましたね」
その時、春樹が入ってきた。
「おはよう」春樹が温かく微笑む。「今日は特別な日だね」
「特別な?」千秋が首を傾げる。
「ええ」春樹が説明を始める。「今日から、正式に新体制が」
アトリエの組織改編。これまでの成果が認められ、より大きな裁量が与えられることになった。
「つまり」蓮が千秋の方を向く。「これからは、完全に二人で」
その言葉に、千秋の胸が高鳴る。
「篠原様」
「風間さん」蓮の目に、確かな光が宿る。「共に、歩んでいきましょう」
研修生たちも、そんな二人の様子を見守りながら、静かに微笑んでいた。
「先生」若手デザイナーの一人が発言する。「私たちも、必ず」
その決意に満ちた言葉に、千秋は深い感動を覚えた。
アトリエには、朝の光が満ちていく。
その光が、新しい時代の幕開けを告げるよう。
「さて」春樹が場を和ませるように。「新体制初日の予定を」
打ち合わせが始まる。
しかし、その空気には確かな希望が満ちていた。
「これからは」蓮が千秋の横で。「本当の意味での、二人三脚」
「はい」千秋も力強く。「私たちの道を」
マリーは、そんな二人の様子を熱心にメモに収めていた。
「素敵な物語が、また一つ」
アトリエの窓から、京都の街並みが見える。
伝統と現代が調和する景色。
まるで、二人の技法のように。
「思えば」春樹が懐かしむように。「長い道のりでした」
確かに。パリでの挑戦。アトリエの設立。そして、二人の出会いと成長。
全てが、今、新しい形で動き始めようとしていた。
「兄様」
さくらが顔を出す。
「結婚式の準備は」
「ああ」蓮が穏やかに微笑む。「全て、順調だよ」
研修生たちも、その言葉に喜びの表情を浮かべる。
「先生方の」彼らが口々に。「末永い幸せを」
千秋は少し頬を染めた。
けれど、その表情には確かな幸せが浮かんでいる。
「これからも」蓮が千秋の手を取る。「二人で、夢を追いかけましょう」
アトリエには、新しい風が吹き始めていた。
それは伝統と革新の風。
そして、二人だけの特別な物語の風。
朝日が昇り、全てを祝福するように輝いていた。
新しい一日の始まり。
そして、二人の物語の新しい章。
(つづく)




