第64話:新しい朝
「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます」
Atelier Traditionの研究会で、千秋は静かに挨拶を始めた。会場には、日本全国から集まった伝統技法の継承者たち。そして、パリからの取材陣。初めての研究会は、予想以上の注目を集めていた。
「本日は」千秋が続ける。「伝統と革新の融合について」
朝日が差し込む会場で、新しい技法のプレゼンテーションが始まる。蓮の祖母の研究を基に、現代的な解釈を加えた独自の手法。
「これが」蓮が千秋の横で説明を加える。「私たちが目指す未来への道筋です」
会場から、感嘆の声が上がる。
「素晴らしい」
蓮の祖母の同僚が、感動的な表情で立ち上がった。
「まさに」彼女が続ける。「伝統が進化する瞬間を見た思いです」
マリーは熱心にメモを取っている。
「風間さんと篠原さんの技法が、世界を変えていく」
春樹は後方で、親友の晴れ舞台を見守っていた。
「本当に」春樹が小さく呟く。「ここまで来たんだね」
玲奈とさくらも、感動的な表情で発表に聞き入っている。
「兄様と風間さん」さくらが嬉しそうに。「本当に素敵な形になりましたね」
プレゼンテーションは続く。
伝統技法の解説。現代的なアレンジの提案。そして、若手育成プログラムの詳細。
「この技法を」千秋の声が力強くなる。「次の世代へと」
「そして」蓮が続ける。「新しい価値の創造へと」
二人の言葉は自然と重なり合い、互いの想いを補完していく。
研究会は大きな反響を呼び、予定時間を超えて質疑応答が続いた。
「風間さん」マリーが興奮気味に。「パリでも、このような機会を」
それは新しい可能性を示唆する言葉だった。
会が終わり、参加者が去った後。
アトリエには静けさが戻ってきた。
「お疲れ様」春樹が二人に近づく。「素晴らしい発表でした」
「ありがとうございます」千秋が深々と頭を下げる。「水城さんのおかげで」
「いいえ」春樹が微笑む。「これは、二人の力です」
その時、アトリエのドアが開く。
「失礼します」
若い職人たちが、期待に満ちた表情で入ってきた。育成プログラムの第一期生たち。
「私たちも」彼らが真摯に。「この技法を、必ず」
その言葉に、千秋と蓮は顔を見合わせて微笑んだ。
「これから」蓮が若者たちに向かって。「共に、道を切り開いていきましょう」
「はい!」
力強い返事が、アトリエに響く。
「さて」春樹が場を和ませるように。「お祝いの席を」
研究会の成功を祝う会が、静かに始まる。
マリーも取材を終え、和やかな雰囲気に加わった。
「風間さん」マリーが千秋に近づく。「素敵な記事になりそうです」
「ありがとうございます」千秋が微笑む。「パリでの思い出が、また一つ」
蓮は、そんな千秋の横顔を優しく見つめていた。
アトリエの窓から、夕暮れの光が差し込んでくる。
長い一日が、終わろうとしていた。
「あのさ」春樹が蓮に向かって。「覚えているか」
「ああ」蓮も懐かしむように。「あの日の約束を」
学生時代の夢。伝統と革新の融合。そして、新しい価値の創造。
全てが、今、形になろうとしていた。
「これで」さくらが嬉しそうに。「本当の一歩を」
「ええ」玲奈も頷く。「新しい朝が、始まるわね」
アトリエには、確かな希望が満ちていく。
それは伝統と革新の調和。
そして、二人の愛が紡ぐ未来。
夕暮れの光が、二人を優しく包み込む。
それは新しい章の始まりを告げるよう。
(つづく)




