第63話:結ばれる心
「これが、最終調整です」
Atelier Traditionの展示室で、千秋は新作のドレスに向き合っていた。開所から二週間。伝統と革新が見事に調和した作品が、朝日を受けて神々しい輝きを放っている。
「本当に」マリーが感動的な表情で。「素晴らしい出来栄えです」
パリからの取材のため、再び来日していたマリー。その目には、純粋な感動が浮かんでいた。
「これこそ」マリーが続ける。「風間さんと篠原さんの、真の融合ですね」
その時、アトリエのドアが開く。
「失礼します」
蓮が入ってきた。完璧なスーツ姿。しかし、その表情には穏やかな柔らかさが宿っている。
「風間さん」蓮が近づく。「研究会の準備は」
「はい」千秋が頷く。「全て、整いました」
明日に控えた初めての研究会。伝統技法の継承者たちが一堂に会する、重要な機会となる。
「それと」蓮が新しい書類を取り出す。「パリからの提案も」
欧州での展示会計画。今度は、二人の技法を世界に向けて発信する機会。
「その前に」千秋が静かに言う。「お見せしたいものが」
作業台の上に広げられた図面。
それは、新しい若手育成プログラムの詳細だった。
「これは」蓮が目を見開く。「祖母の技法を基に」
「はい」千秋の声に力が込められる。「次の世代への、私たちからの贈り物として」
その瞬間、アトリエのドアが再び開く。
「失礼いたします」
春樹と玲奈、そしてさくらが入ってきた。
「兄様」さくらが嬉しそうに。「素敵なニュースを聞きました」
研究会の話。パリでの展示会。そして、新しい育成プログラム。
「全て」さくらが感動的に。「風間さんと兄様らしい形に」
「本当にね」玲奈も頷く。「二人の想いが、形になって」
春樹は、そんな様子を見守りながら、静かに微笑んでいた。
「長かったけど」春樹が小さく呟く。「これが、最高の形だ」
アトリエに、朝の光が満ちていく。
その光が、新しい未来を照らすよう。
「なぁ」春樹が蓮に向かって。「覚えているか」
「ああ」蓮も懐かしむように。「学生時代の、あの約束」
伝統と革新の融合。新しい価値の創造。若き日の夢が、今、現実となっている。
「風間さん」マリーがノートを取りながら。「素敵な物語になりそうです」
千秋は少し頬を染めた。
けれど、その表情には確かな幸せが浮かんでいる。
「これからは」蓮が千秋の手を取る。「二人で、夢を追いかけましょう」
「はい」千秋も力強く。「私たちの、新しい道を」
アトリエの窓から、京都の街並みが見える。
伝統と現代が調和する景色。
まるで、二人の技法のように。
「さて」春樹が立ち上がる。「明日の研究会の準備を」
マリーも取材の続きへと向かう。
「期待していますよ」
さくらと玲奈も、優しく見守る。
「頑張ってね」
残された二人は、並んで窓際に立つ。
朝の光が、その姿を優しく包み込む。
アトリエには、新しい風が吹き始めていた。
それは伝統と革新の風。
そして、二人だけの特別な物語の風。
二本の針が、朝の光を受けて輝いている。
それは過去から未来への架け橋。
そして、二人の誓いの証。
全てが、今、確かな形となって結ばれていく。
それは伝統と革新の調和。
そして、永遠の愛の誓い。
(つづく)




