第60話:変わる未来
「技法が、また一つ」
千秋は作業台で、新しい試作品を確認していた。研修生たちの加入から一週間。伝統と革新を組み合わせた彼らの挑戦が、少しずつ形になり始めていた。
「本当に」蓮が隣で頷く。「彼らの成長が早い」
作業台には、若手たちの試作品が並んでいた。光の当て方で模様が浮かび上がる効果。伝統的な刺繍を基礎としながら、現代的な解釈を加えた技法。それは確かに、二人が追い求めてきた道そのものだった。
「先生」
研修生の一人が、新しい試作を手に近づいてきた。
「ここの構造を」彼が説明を始める。「もう少し」
その真摯な眼差しに、千秋は胸が熱くなる。かつての自分たちのように、技法に向き合う若者たち。
「そうですね」千秋が優しく指摘する。「光の角度を少し」
蓮も真剣に作品を見つめていた。経営者の顔ではなく、一人の研究者として。
その時、春樹が書類を手に入ってきた。
「研究センターの認定が」春樹の声に喜びが混ざる。「正式に下りました」
アトリエに、小さな歓声が上がる。
伝統技法の研究・継承の拠点として、公的な認定を受けたのだ。
「これで」蓮が千秋の方を向く。「私たちの夢が、また一つ」
「ええ」千秋も微笑む。「技法が、確実に未来へ」
アトリエの窓から、夏の風が入ってくる。
カーテンが、新しい季節の訪れを告げるように揺れる。
「千秋」蓮が静かに声をかける。「ありがとう」
「え?」
「私の夢に」蓮の目に深い感情が浮かぶ。「命を吹き込んでくれて」
千秋は小さく首を振った。
「それは」彼女の声が柔らかくなる。「私たち、二人の夢」
作業台の上で、三本の針が光を放っている。
それは過去から未来への架け橋。
そして、永遠の愛の証。
アトリエには、新しい風が満ちていく。
それは次の世代への風。
そして、二人が紡ぐ希望の風。
(つづく)




