第59話:新たな誓い
「新しい体制、初日の朝です」
Atelier Traditionの作業場で、千秋は早朝から針を持っていた。研修生たちが加わり、アトリエは新しい活気に満ちている。窓から差し込む光が、作業台の上の試作品を優しく照らしていた。
「おはよう」蓮が入ってきた。いつもの完璧なスーツ姿だが、その表情には穏やかな幸せが滲んでいる。
「おはようございます」千秋も微笑む。「蓮さん」
二人でアトリエを見渡す。研修生たちは既に作業を始めていた。
「彼らの目が」蓮が静かに言う。「私たちと同じ光を持っている」
千秋も頷く。伝統への敬意と、革新への情熱。それは確かに、かつての二人の姿を映しているようだった。
その時、春樹が資料を手に入ってきた。
「欧州からの新しいオファーです」
「これは」千秋が目を見開く。「研究センターとしての」
「ええ」春樹が頷く。「世界的なネットワークの一員として」
アトリエに、新しい風が吹き始める。それは未来への確かな一歩。
「蓮さん」千秋が蓮の方を向く。「私たちの技法が」
「ええ」蓮の目に、確かな光が宿る。「世界へと、羽ばたこうとしている」
作業台の上で、三本の針が静かに光を放っている。
それは過去から未来への架け橋。
「先生」
若手デザイナーの一人が、試作品を手に近づいてきた。その手には、伝統技法を基礎としながらも、新しい解釈を加えた作品が。
「この光の当て方で」彼が説明を始める。「模様が浮かび上がるように」
千秋と蓮は、その作品に見入った。まだ荒削りながら、確かな可能性を感じさせる一品。
「素晴らしい」蓮が静かに頷く。「私たちが目指していた方向性そのものだ」
研修生の目が輝く。
「ここを」千秋が優しく指摘する。「もう少し角度を変えてみては」
技術的なアドバイスを交わす中、アトリエ全体が一つの大きな流れとなっていく。それは伝統が新しい世代へと受け継がれていく、確かな瞬間。
「水城さん」千秋が声をかける。「この調子なら」
「ええ」春樹も満足げに。「研究センターとしての認定も、間違いないでしょう」
アトリエの窓から、夏の風が入ってくる。
カーテンが、新しい季節の訪れを告げるように揺れる。
「千秋さん」蓮が静かに声をかける。「少し、時間をもらえますか」
二人は窓際に立つ。
京都の街並みを眺めながら。
「この景色を見ていると」蓮の声が柔らかくなる。「祖母の時代から、どれほどの技が受け継がれてきたのかと」
「ええ」千秋も頷く。「そして、これからも」
「共に」蓮が千秋の手を取る。「未来へと」
その瞬間、朝の光が二人を包み込む。
まるで永遠の誓いを、祝福するかのように。
春樹は、そんな二人の姿を見守りながら、深いため息をついた。
「これで良かった」彼は小さく呟く。「全てが、最高の形になった」
アトリエには、希望が満ちていく。
それは新しい世代への光。
そして、永遠に続く愛の証。
(つづく)




