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第58話:迷いの果て

「これが、新しい企画書です」


Atelier Traditionで、千秋は資料を広げていた。帰国から一週間。伝統と革新を融合させた若手育成プログラムの詳細が、ようやく形になってきていた。


「なるほど」春樹が熱心に目を通す。「パリでの評価を活かしながら」


朝日が差し込む作業場で、新しいプロジェクトの打ち合わせが始まっていた。白木の床に落ちる光が、清々しい空気を演出している。


「それと」千秋が新しい資料を取り出す。「研究センターとしての申請も」


その時、アトリエのドアが開く。


「おはようございます」


蓮が入ってきた。完璧なスーツ姿。しかし、その表情には以前の硬さはない。


「千秋さん」蓮が近づく。「プロジェクトの件で」


二人の視線が重なる。

パリから帰って以来、新しい関係が少しずつ形を成していく。


「実は」蓮が一枚の書類を差し出す。「取締役会からの正式な承認が」


千秋は息を呑んだ。

それは、このアトリエの未来を決定づける重要な書類だった。


「篠原グループの研究開発部門として」蓮が説明を続ける。「そして、伝統技法の継承センターとして」


春樹は、そんな二人のやり取りを見守りながら、静かに微笑んでいた。


「順調ですね」春樹が言う。「パリでの成功以来、周囲の目も変わって」


確かに。欧州での高い評価は、日本国内でも大きな反響を呼んでいた。伝統と革新の融合という新しい価値観が、多くの支持を集めている。


「それに」蓮が続ける。「千秋さんへの期待も」


その言葉に、千秋は少し頬を染めた。


「私は」千秋が静かに言う。「ただ、技法を守りたいだけ」


「違います」


蓮の声が、アトリエに響く。


「あなたは」蓮の目に、確かな光が宿る。「新しい価値を創造している」


その瞬間、アトリエのドアが開く。


「失礼します」


玲奈が、若手デザイナーたちと共に入ってきた。


「初めての研修生たちが」玲奈が嬉しそうに。「今日から」


彼らの目には、確かな決意が宿っていた。


「先生方」若手たちが深々と頭を下げる。「どうぞよろしくお願いいたします」


千秋は温かな目で彼らを見つめた。未来へと繋がっていく技法。それは、まさに今この瞬間から始まろうとしていた。


「では」春樹が立ち上がる。「新体制初日の予定を」


打ち合わせが始まる。しかし、その空気には確かな希望が満ちていた。


「これからは」蓮が千秋の横で。「本当の意味での、二人三脚」


「はい」千秋も力強く。「私たちの道を」


玲奈は、そんな二人の様子を熱心にメモに収めていた。「素敵な物語が、また一つ」


アトリエの窓から、京都の街並みが見える。伝統と現代が調和する景色。まるで、二人の技法のように。


「思えば」春樹が懐かしむように。「長い道のりでした」


確かに。パリでの挑戦。アトリエの設立。そして、二人の出会いと成長。全てが、今、新しい形で動き始めようとしていた。


「これからの」春樹がアトリエを見渡す。「お二人の未来に」


その言葉には、長年の友情と、新しい期待が込められていた。


研修生たちも、その言葉に喜びの表情を浮かべる。「先生方の姿を、私たちも継いでいきます」


アトリエには、新しい風が吹き始めていた。それは伝統と革新の風。そして、二人だけの特別な物語の風。


朝日が昇り、全てを祝福するように輝いていた。新しい一日の始まり。そして、彼らの物語の新しい章。


(つづく)

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