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第52話:見つけた真実

「これが、蓮の研究ノートですか」


パリのアトリエで、千秋はフランス国立図書館から取り寄せた資料に見入っていた。留学時代の蓮が残した研究記録。その一冊を、図書館の司書が偶然発見したという。


「驚きました」春樹が隣で資料を確認している。「まさかここで見つかるとは」


十年前の日付が記された研究ノート。ページをめくるたびに、若き日の蓮の情熱が伝わってくる。伝統技法への深い理解と、革新への果敢な挑戦。その全てが、丁寧な文字で記されていた。


「ここにも」千秋がページを指さす。「光の当て方による効果の研究が」


それは現在の二人の技法に通じる、先駆的な発想だった。


「そうですね」春樹が懐かしそうに微笑む。「当時は、誰も理解してくれなくて」


パリの朝日が、アトリエの窓から差し込んでくる。展示会まであと一週間。準備は着々と進んでいたが、この発見は新たな展開を予感させていた。


「でも」千秋が静かに言う。「今なら、この可能性を」


その時、アトリエのドアが開く。


「失礼します」


現地コーディネーターのマリーが入ってきた。手には新しい展示プランの資料。


「風間さん」彼女が流暢な日本語で言う。「素晴らしいニュースが」


差し出された書類には、パリのファッション界からの反響が記されていた。展示会前から、既に大きな注目を集めているという。


「特に」マリーが興奮気味に続ける。「篠原さんの過去の研究と、風間さんの技術の融合という点に」


千秋は黙って頷いた。

それは単なる偶然以上の、運命的な巡り合わせに思えた。


「風間さん」春樹が静かに声をかける。「蓮に、報告しますか」


その提案に、千秋は少し躊躇う。

時差の関係で、連絡を取るタイミングが難しかった。


「いいえ」千秋は首を振る。「展示会で、直接」


その決意には、特別な想いが込められていた。


「そうですね」春樹も同意する。「きっと、驚くはずです」


アトリエの中で、準備作業が続く。

マリーが持ち込んだ資料を基に、展示レイアウトの最終確認。


「ここに」千秋が図面を指さす。「研究ノートの展示コーナーを」


「素晴らしいアイデアです」マリーが目を輝かせる。「過去から未来への架け橋として」


その時、千秋の携帯が震える。

日本からのメッセージ。玲奈からだった。


『アトリエの準備、順調よ。蓮様も、時々様子を見に』


その言葉に、千秋は胸が熱くなる。

離れていても、確かに繋がっている絆。


「風間さん」春樹が近づいてくる。「面白い発見が」


研究ノートの奥に挟まれていた一枚の写真。若き日の蓮が、パリの街並みをバックに微笑んでいる。その表情には、今では見られない無邪気さがあった。


「この頃の彼は」春樹が懐かしそうに言う。「本当に、研究に情熱を注いで」


千秋は写真を静かに見つめた。

そこには、彼女の知らない蓮の一面が映し出されている。


「実は」春樹が続ける。「この研究は、完成間近だったんです」


「え?」


「ええ」春樹の声が低くなる。「でも、家を継ぐことになって」


その言葉に、千秋は深い共感を覚えた。

伝統を受け継ぐ者としての責任と、新しい道を切り開きたい想い。


「でも」千秋が決意を込めて言う。「今なら」


「そうですね」春樹が微笑む。「あなたと一緒なら、きっと」


アトリエの窓から、パリの街並みが見える。

十年前、蓮もこの景色を見ながら、夢を追いかけていたのだろうか。


「マリーさん」千秋が声をかける。「もう一つ、お願いがあります」


「はい?」


「この研究ノートを」千秋が真摯に言う。「展示会で、特別なスペースを」


マリーは即座に理解を示した。

「もちろんです。過去と現在を繋ぐ、重要な展示として」


準備作業は、さらに活気を帯びる。

研究ノートの発見により、展示会全体のストーリーが、より深みを増していった。


夕暮れが近づき、アトリエに夕陽が差し込んでくる。

千秋は窓際で、パリの街を見つめていた。


「風間さん」春樹が優しく声をかける。「今日は、ここまでにしましょう」


「はい」千秋は小さく頷く。「でも、もう少しだけ」


研究ノートを、もう一度開く。

若き日の蓮の文字に触れるたび、温かな気持ちが込み上げてくる。


(篠原様)

心の中で、その名を呼ぶ。

(きっと、この夢を完成させます)


パリの空が、夕焼けに染まっていく。

アトリエの中に、確かな希望が満ちていた。


マリーは、片付けを終えながら千秋を見つめる。

「風間さん」彼女が優しく微笑む。「素敵な物語になりそうですね」


「え?」


「研究ノートの持ち主と」マリーが意味深に言う。「あなたの出会いが、運命的で」


千秋は少し頬を染めた。

パリの人々は、そういう部分に敏感なのかもしれない。


「さぁ」春樹が立ち上がる。「明日も早いですから」


アトリエを後にする三人。

夕暮れのパリの街が、優しく包み込んでくる。


千秋は最後にもう一度、研究ノートを見つめた。

そこには確かな可能性が、眠っていた。


(一週間後)

心の中で、期日を確認する。

(必ず、素晴らしいものにしましょう)


パリの街に、夜の気配が漂い始めていた。

明日も、新しい発見が待っているはず。


(つづく)

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