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第47話:消えた笑顔

「到着ロビーへ、向かったそうです」


早朝のアトリエで、春樹からの連絡を受けた玲奈は、緊張を隠せなかった。夜が明け始めた空には、うっすらと朝焼けの色が浮かんでいる。


「さくらさんも」玲奈が隣を見る。「緊張してるみたい」


「ええ」さくらは着物の袖を握りしめている。「でも、今日は特別な日に」


アトリエには、夜明けの静けさが満ちていた。いつもの朝と同じように見える空間が、今日は何か違う空気を纏っている。


その時、春樹から新しいメッセージが届く。

携帯の画面に映る言葉に、二人は息を呑んだ。


「まさか」玲奈の声が震える。「あの篠原様が」


スマートフォンには、思いがけない展開が記されていた。

誰もが予想しなかった、蓮の決断。


アトリエのドアが、静かに開く。


「鳴海さん」


秘書が、いつになく慌ただしい様子で駆け込んでくる。


「緊急の取締役会が」


「社長が」秘書が息を整えながら。「アメリカ行きを、完全に取りやめると」


アトリエに、衝撃が走る。


「でも」玲奈が声を上げる。「パリで決まったはずの」


「はい」秘書が続ける。「そのため、緊急の」


さくらの表情が、複雑に揺れる。

兄の突然の決断に、戸惑いと期待が入り混じっている。


「水城さんは?」玲奈が尋ねる。


「空港から、直接取締役会へ」秘書が答える。「社長と共に」


「風間さんは?」さくらの声に心配が滲む。


「一度」秘書が言葉を選ぶように。「アトリエに向かうと」


アトリエの窓から、朝日が差し込み始める。

その光が、新しい混乱の幕開けを告げているかのよう。


「取締役会の反応は」玲奈が心配そうに。


「かなり」秘書の表情が曇る。「厳しい意見が」


その時、アトリエのドアが再び開く。


千秋が立っていた。

パリから帰国したばかりの彼女の表情には、疲れと共に、何か深い決意が浮かんでいる。


「風間さん」さくらが駆け寄る。「兄様が」


「はい」千秋は静かに頷く。「空港で、全てを」


アトリエに、重い空気が流れる。

朝の光が、三人の影を床に落としていた。


「篠原様は」千秋が続ける。「私のために」


その言葉に、さくらと玲奈は息を呑む。


「でも」千秋の声が力強くなる。「それは違います」


「え?」


「私たちは」千秋は作業台に向かう。「もっと大切なものを見つけた」


そう言って、彼女は新しい布地を広げ始めた。


「これは」さくらが目を見開く。


「はい」千秋は微笑む。「パリで完成させた、新しい技法です」


朝の光を受けて、布地が神々しい輝きを放つ。

それは単なる作品以上の、何かを物語っているよう。


「私たちの夢は」千秋が続ける。「ここにあるんです」


アトリエの窓から、夏の風が入ってくる。

カーテンが、新しい決意を見守るように揺れる。


「だから」千秋はまっすぐに前を見つめる。「取締役会に、伝えに行きます」


「風間さん」さくらの目に、涙が光る。


「二人で見つけた未来を」千秋の声に力が込められる。「私たちの言葉で」


玲奈は、そんな千秋の姿に、確かな希望を見た。

それは迷いのない、強い決意に満ちた瞳。


アトリエの中に、朝の光が満ちていく。

新しい物語は、ここから始まろうとしていた。


(つづく)

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