表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/76

第33話:結婚式当日の朝

「これで、完璧」


千秋は、さくらのウェディングドレスに最後の仕上げを施していた。朝日が昇り始めたばかりのアトリエで、白いドレスが神々しい輝きを放っている。


パリ展示会まであと六日。そして今日は、さくらの結婚式。全ては、この一着から始まった物語。


「本当に」玲奈が感動的な表情で見つめる。「素晴らしい出来栄え」


ドレスには、二人の祖母の技法が見事に融合していた。伝統的な刺繍は光を受けて新しい表情を見せ、シルエットは現代的な優雅さを纏う。


「千秋」玲奈が静かに言う。「このドレスは、あなたの集大成ね」


その時、アトリエのドアが開く。


「失礼します」


さくらが、着付けの準備を終えた姿で入ってきた。その表情には、晴れやかな期待と、僅かな緊張が混ざっている。


「風間さん」さくらの目が潤む。「このドレス、本当に」


千秋は微笑みながら、ドレスへと導く。


「さぁ」千秋が優しく言う。「お召しになって」


さくらがドレスを身につける間、千秋は一針一針を確認していく。全ての縫い目、全ての刺繍に、これまでの想いが込められている。


「美しい」


振り返ると、蓮が立っていた。モーニングに身を包んだ姿は凛々しく、けれどその目には兄としての優しさと誇らしさが滲んでいる。


「兄様」さくらが振り向く。


蓮の表情が、一瞬で和らぐ。

妹の晴れ姿に、言葉を失ったように。


「本当に」蓮の声が震える。「幸せそうだ」


「はい」さくらが微笑む。「風間さんのドレスのおかげで」


千秋は静かに二人を見守っていた。

この瞬間のために、全てがあったのだと実感する。


「風間さん」蓮が千秋の方を向く。「ありがとうございます」


その言葉には、単なる感謝以上の、深い想いが込められていた。


「いいえ」千秋は首を振る。「私こそ」


その時、春樹が姿を見せた。


「さくら」春樹が優しく微笑む。「本当に素敵だよ」


「春樹さん」さくらの目が輝く。「見てください、このドレス」


「ええ」春樹が頷く。「風間さんと蓮の、想いが形になったんだね」


アトリエに、朝の光が満ちていく。

白いドレスが、まるで光を纏ったように輝いている。


「そろそろ」玲奈が時計を見る。「式場に」


さくらは最後にもう一度、鏡の前で姿を確認する。

ドレスが、彼女の仕草に合わせて優雅に揺れる。


「風間さん」さくらが千秋に向き直る。「最後に、お礼を」


「いいえ」千秋は微笑む。「さくらさんの幸せな姿が、何より」


その時、さくらが千秋を抱きしめた。


「兄様のことも」さくらが小さな声で。「よろしくお願いします」


千秋は言葉を失う。

その想いの重みに、胸が熱くなる。


蓮と春樹は、そんな二人の様子を見守りながら、意味深な視線を交わしていた。


「では」春樹が空気を和ませるように。「そろそろ」


さくらは優雅に歩き始める。

ドレスのトレーンが、朝の光を受けて煌めく。


アトリエに残された千秋は、静かに深いため息をついた。

ここからが、新しい物語の始まり。


「行きましょう」玲奈が千秋の肩に手を置く。「あなたも、大切な一日よ」


千秋は小さく頷いた。


作業台の上には、二本の針が残されている。

一本は千秋の祖母から、もう一本は蓮の祖母から。


その二本が紡いだ物語は、

これからも続いていく。


窓から差し込む光が、アトリエ全体を包み込む。

それは新しい季節の訪れを告げるよう。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ