第14話:揺れる心音
「水城さんからの企画書です」
千秋は作業台に広がる資料に目を通していた。若手デザイナー育成プロジェクト。それは単なる教育プログラムではなく、伝統と革新を融合させる新しい試みだった。
「面白い提案ね」玲奈が覗き込む。「でも、随分と野心的な内容だわ」
確かに。従来の技法を基礎としながら、最新のテクノロジーを組み込んでいく。その構想は、千秋自身が目指していた方向性と、不思議なほど重なっていた。
「蓮から話は聞いています」春樹が柔らかな笑顔で言う。「風間さんの技術なら」
その「蓮」という呼び方に、千秋は微かな違和感を覚えた。それは単なるビジネス上の付き合いではない、深い信頼関係を感じさせる響き。
「大学時代からの親友でして」春樹が説明を加える。「研究室も同じで」
千秋は息を呑んだ。蓮の学生時代。伝統技法の研究に没頭していた日々。その時代を共に過ごした人物が、今目の前にいる。
「このプロジェクトは」春樹が続ける。「蓮の夢でもあるんです」
「夢、ですか?」
「ええ」春樹の目が遠くを見つめる。「伝統を守りながら、新しい価値を創造する。学生時代から、彼が追い求めてきたもの」
その言葉に、千秋は胸が熱くなるのを感じた。
「風間さん」春樹が真摯な眼差しで言う。「蓮の夢を、形にしてあげてください」
その時、アトリエのドアが開く。
「春樹」
蓮が立っていた。普段の凛とした姿。しかし、春樹の前では僅かに肩の力が抜けているように見える。
「おや」春樹が振り返る。「ちょうど、プロジェクトの説明を」
「風間さん」蓮が千秋の方を向く。「この企画には、私からの提案も」
その視線には、普段は見せない期待が込められていた。
「実は」蓮が続ける。「パリの展示会と、このプロジェクトを連動させたいと」
千秋の心臓が跳ねる。
二つの大きな挑戦。
そこには、確かな期待と重圧が込められている。
「私に」千秋が恐る恐る言う。「できるでしょうか」
「できます」
「必ずできる」
春樹と蓮の声が重なった。
二人は顔を見合わせ、懐かしそうに微笑む。
その光景に、千秋は微かな寂しさを覚えた。
それは、自分の知らない蓮の一面を見た気がしたから。
それとも——。
(つづく)




