第18話 アタシは最初から最後までクライマックスよ
古羊の盗まれたパッドを捜索し始めて、3日目の放課後。
俺たちは学校近くの雑木林の中に居た。
「あった! あったわよ、2人とも!」
「よかったね」
「メイちゃん……」
茂みに顔を突っ込んで「ひゃっほーい!」と狂喜乱舞する亜麻色の髪の美少女を、何とも言えない気持ちで眺める、俺とよこたん。
時刻は午後6時手前。
俺たちは古羊の盗まれたパッドが眠る場所で、彼女のパッドを取り戻しに来ていた。
「まさか、ししょーのGPS作戦がこんなに上手くいくなんて……。やったね!」
「……確かに俺は『パッドの中にGPSでも仕込むか?』とは言ったけどさ? マジで仕込むかヤツがあるか? 普通?」
「メイちゃんは普通じゃないから……」
いまだに「おかえり、我が子たちよっ!」と狂喜している姉を、生暖かい目で見守る妹。
実の妹にこんなセリフを吐かれるアイツって、一体……?
「何をしてるの2人とも! はやくこっちに来なさい!」
布製のパッド片手に、狂ったように喜び続ける現役女子校生。
これは現実か?
俺とよこたんは、苦笑を浮かべながら古羊に近寄り、茂みの中を確認した。
そこには、古羊のパッドだけではなく、手編みのマフラーや手袋、はては女物の下着が多数無造作に置かれていた。
「はぁ~、随分と色んなものがあるなぁ……。おっ、黒のスケスケパンティー発見! 誰のだ、これ?」
「し、ししょーは見ちゃダメ!」
よこたんに目を塞がれる。
ぷにっ♪ とした感触が妙に気持ち良かった。
「なにはともあれ、無事に古羊のパッドも見つけたし、そろそろ撤収しようぜ?」
「そ、そうだね。それじゃ帰ろっかメイちゃん」
「……まだよ、まだ終わってないわ」
はぁ? と、よこたんと2人して古羊を見る。
そこにはさっきまで喜んでいた女はおらず、代わりに復讐に燃えるアヴェンジャーが居た。
「アタシ、言ったはずよ? 『パッドを取り戻したうえで、パッドを盗んだ犯人を血祭りにあげたい』って」
「……やっぱり何度聞いても、狂った発言だよなぁ」
「えっ? め、メイちゃんまさか……」
よこたんの顔が、一瞬で強ばった。
俺は何となくこうなるんじゃないかという気はあったので、そこまで驚きはしていない。
古羊は茂みの中で無造作に置かれている下着類を指さし、
「犯人は盗んだ物をこの場所で保管している。つまり、ここに再び犯人が現れる可能性が高いということ! ということは――」
「ここを張り込んでいれば犯人を逮捕できる、てか?」
「その通りよ! 今からここに張り込んで、必ず犯人を捕まえるわよ!」
「だ、ダメだよ!? そんなの危なすぎるよ!」
断固反対っ! と言わんばかりに、姉の制服の裾を握る妹。
確かに、よこたんの言う通りである。
もうすでに辺りは薄暗くなり始めているし、何よりついこの間、謎の女たちに襲われたばかりだ。
もしかしたら、また変な奴に襲われるかもしれない。
だが古羊のことだ。また無理やり協力させるんだろうな。
なんて思っていたら、
「……そうね、確かに危険すぎるわよね」
と殊勝なことを言ってビックリしてしまった。
ど、どうしたんだ古羊? と怪訝そうな瞳で彼女を見つめる。
「女の子が夜中にこんな場所にいちゃ、襲われても文句は言えないわよね。……それでも、アタシは真犯人を捕まえたい。捕まえて、血祭りにあげたいの」
「澄んだ瞳でゲスいこと言うなぁ」
思わず感心してしまった。
有言実行とは見上げた根性だ。
が、もちろんそんな言葉で納得する妹ちゃんではない。
「だ、ダメだよメイちゃん! もう暗くなるし今日は帰ろう? また明日から張り込めばいいでしょ?」
「……洋子は先に帰りなさい。アンタを危ない目に遭わせるわけにはいかないわ」
「メイちゃんっ!」
「大丈夫よ、アタシは1人じゃないわ」
だって、と古羊は言った。
「だって大神くんも一緒に見張るんだもの」
「えっ、俺も?」
これまたいつの間にか『犯人捜索隊』の一員に組み込まれていた。
どうやら俺の1日はまだ終わらないらしい……。




