パパと呼んで…。 vol.067 沈黙する車内。
「お父さんかな…。2歳くらいの…背中におぶってた。そして隣にお母さん。ベビーカー押してた。お父さんの左手……。」
そこまで話して声を詰まらせた侑佳。
隣で運転をしながら直道、
「侑…佳…。」
「……ごめん…なさい。…でも…。」
そして、沈黙する車内。侑佳の頭の中に浮かぶ洗濯室。
そして直道の頭の中に浮かぶ産婦人科の病室。
2月の某日、汀家のリビングでは姑の友人が訪れていて世間話に談笑中だった。
身重の侑佳、自分と夫の洗濯物をカゴに入れて、
洗濯機のスイッチを再び押して洗濯室を出ようと…。
その瞬間、液体洗剤が垂れて床に落ちていたのだろう。
そこに足を滑らせ…。
賑やかに談笑中のリビング。その中のひとりが、
「ねぇ~奥様、若奥様…、もうそろそろですね~赤ちゃん。」
その声に汀志摩子、
「えぇ、えぇ…。お蔭様で…。」
そしてもうひとりが、
「若奥様、今…どちらへ…???」
「多分、座敷で休んでいるかと…。侑佳さん。侑佳さ~ん。」
ところが、志摩子が何度名前を呼んでも声がない。志摩子、
「もしかして…、眠っているのかしら…ほほほほ。」
そう言いながら席を立ち、リビングから座敷の方へ…。
ところが温かい座敷で、
リクライニングチェアで休んでいるはずの侑佳の姿がない。
「変ねぇ…。」
そして聞こえる洗濯機の音。廊下を歩き、
「もしかして…。侑佳さん、そんな体で洗濯なん…。」
その時に自分の目に飛び込んで来た光景。
床に倒れている侑佳の姿。
「侑佳さん!!!!」
侑佳は気絶していた。救急車は最寄りの産婦人科に。
連絡を受けて病院に駆け付けた直道、
「母さん!!!侑佳!!!」
志摩子、
「直道、直道。ごめんなさい。ごめんなさい。」
声を殺しながら直道の両肩を握り締めて。
「どうして、こんな…。」
ベッドの傍の看護師を見ながら、ベッドで寝むっている侑佳の顔を見て、
「侑佳、侑佳。看護婦さん、侑佳は、侑佳は、お腹の子供は???」
少し沈黙した後に、
「奥様は…眠ってらっしゃいます。ただ…、残念ながらお腹の赤ちゃんは…。申し訳ございません。」
その看護師の声を聞いて直道、
「…そ…、そんな…。」
それから数時間後、目覚めた後に医師と看護師から告げられた事実に、
涙を流す侑佳。




